ベネッセ教育総合研究所
特集 進路学習の深化を探る
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進路選択の基準となる「自己」を認識させる
---具体的な方策としてはどのような指導が考えられるのでしょうか。
鈴木 私の場合、職業研究や学部・学科研究を行わせる際に、必ず二つ以上の対象について調べ、比較研究させるようにしています。オープンキャンパスに行く際も、最低二つ以上の大学を見学するよう促しています。「感化力」が大きいだけに、一つの大学しか見てこないとかえって進路の絞り込みにつながってしまいますから。また、進路を選ぶという意味を越えて、複数の分野に興味・関心を持ち続けることを積極的に評価すべきだと考えています。海外の大学では「ダブルメジャー」として複数の学部・学科を専攻することも当たり前になっています。最終的に進む学部を絞り込むからといって、興味を持っている分野まで絞り込むような指導は、これからの時代にはそぐわないでしょう。
井上 本校ではグループ学習の方法論の部分で、視野を広げる工夫をしています。具体的に言うと、1年次に生徒が職業に関する班別学習を行う際に、まず初めは志望進路とは関係なく、教師側で機械的に割り振った班編成にするんです。そして、一区切りついたところで他の班も集めて発表会を開き、そこで初めて、自分が興味を持てそうな進路について考えさせるようにしています。いきなり志望別の班編成から入ってしまうと、その後に視野を広げるのは容易ではありませんから。
久保田 視野を拡散させていくというアプローチと共に私が大切だと思うのは、徹底的に一つの職業や学問にこだわった末に、他の職業や学問との関わりを知る、というやり方です。例えば、工学部について調べた生徒でも、表層的にしか調べていない生徒は、すぐに志望分野を絞り込む傾向にありますが、深く調べた生徒は、必ず医学や生物学といった隣接分野との関連に気付きます。学際研究が当たり前になった現在では必要な視点ですよね。指導案としてきちんとした形にしていくのは今後の課題ですが、拡散させるアプローチと、一つにこだわった結果広がった、というアプローチを併用できるようなプランがあればベストだと思います。
久保田圭二
一つにこだわった結果、視野が広がるようなアプローチもあるはず
---そうなると、視野を広げた後に、具体化するべき志望進路を再び絞り込む過程が今まで以上に大切になりますね。
井上 そうですね。しっかりした「自己」を持たせないと、今以上に選択することが難しくなりますよね。だからこそ私は、進路選択の基準となる「自分らしい生き方」を見つける指導を大切にしたいと思います。最近は講演会などでも、できるだけ講演者に、今の仕事に対する使命感や人生観といった「生きざま」を語っていただくようお願いしていますし、卒業生の講演会などでも、大学や学問の情報だけではなく、高校時代をどのように送ったのかを必ず話してもらうようにしています。生き方そのものに対する感化なくして、本当の意味での進路選択はあり得ないと思います。
塩野谷 同感ですね。本校では03年度にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けてから、著名な研究者を招いた講演会に力を入れていますが、生徒の反応が明らかによくなっていると思います。単なる情報ではなく、魅力ある人生や生き方に触れることが、好反応につながっているんですね。講演会を行うにしても、教師も漠然と実施するのではなく、どんな目的を持った活動なのかをきちんと把握して実施しなければいけないと感じました。
塩野谷英彦
進路指導の成果に対する認識を今一度見直すべき
鈴木 生徒に「自己」を持たせる指導と並行して、「なりたい自分」に「なれる自分」をきちんと近付けられるようにする力もしっかり身に付けさせなければならないと思います。せっかく視野を広げて「なりたい自分」が見つかったとしても、それに近付くにはどういう努力が必要なのかが分からなければ、目標は絵に描いた餅で終わってしまいます。
久保田 その点について言えば、目標から逆算して、自分がどのくらい努力すれば目標に到達できるのかを把握する能力、言い換えれば、自分の将来に対するシミュレーション能力を身に付ける指導が今後必要だと思います。3年次に慌てて志望変更する生徒を減らすためにも、こうした指導は重要になってくるのではないでしょうか。


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