ベネッセ教育総合研究所
特集 進路学習の深化を探る
PAGE 6/21 前ページ次ページ


2  「イメージの選択」から「可能性の選択」へ
自己理解を深めさせる指導
 進路学習を通じて目標をせっかく描けたにもかかわらず、「壁を感じた途端に諦め、粘らない傾向が強まったのでは」といった声も聞かれる。また、3年次の志望変更に対する柔軟性のなさや、進学・就職後に発生する本人の興味・適性と学部・学科、職業とのミスマッチも課題になっているようだ。
 その背景に、漠然とした、あるいは独りよがりなイメージのレベルで目標を設定している生徒も少なくないことが挙げられる(図2)。
図2
※「進路選択に必要な知識とスキル」にかかわる項目の調査対象は、4年制大進学者がおよそ50〜75%を占める 普通科高校の生徒に限った。
●97年の数値は「高校生の自己理解と進路展望(97年11〜12月実施)」より。04年の数値は「学習活動の検証 にかかわる共同研究(03年11月)」「高校生の進路意識と学習行動にかかわる共同研究(04年6〜7月)」の各 調査から得た結果を97年調査の類型別構成比に準じて合算集計したもの。いずれもベネッセ教育総研調べ。

図2 進路情報の「調べ方」が分かる生徒は増加。また、イメージレベルの将来展望であれば6〜7割の生徒が描けているが、自己理解に基づき「なれそうな自分」を描ける生徒はそれほど多くない。自己の適性・価値観や、社会や大学で求められる能力要件についての理解を基に、「なりたい自分」と「なれる自分」を重ね合わせていく取り組みが必要である。
 そこで、志望する職業や学問の何が自分にとっての本質的な魅力なのか、それらを通じて何を実現させたいのか、そして社会で自分が果たすべき役割とは何か、といった自己理解を深める指導が求められる。そのために必要な仕掛けとして、(1)「試行錯誤(拡散)」のプロセスを踏ませる、(2)職業・学問研究の過程で「生き方」を考えさせる場面を組み込むことの重要性が、これまで進路学習に取り組んできた多くの学校から改めて指摘されているようだ。


独りよがりの生徒へは「試行錯誤(拡散)」の機会を
 では、前述(1)でいう「揺さぶり」は、どのように行われるべきなのだろうか。その手法として先生方から挙がるのは「複数の視点を取り入れる」ことである。例えば、
(1)文系、理系にこだわらず、複数の職業・学問領域の研究を行わせる
(2)生徒同士の発表を通じ、友達の感じ方、考え方から学ぶ機会を設ける
(3)自分の適性や興味・関心、得意教科など、複数の軸から将来を考えさせる
(4)大学や社会が求める力を知り、自分とのギャップを考えさせる
などが考えられる。様々な視点で進路を考え、視野を広げるための試行錯誤を取り入れたい。
 「志望大学を決めること」と「興味の幅を絞り込むこと」は決して同義ではない。進路学習における「視野を広げる活動」を、今一度見直し、一旦志望を決めた後であっても、自分は何をしたいのか、何ができるかを面談などの場を通じ継続して確認させていくことが必要ではないだろうか。


情報収集中心の取り組みから価値観の形成へ
 更に、今後の進路学習においては、職業研究や学問研究を単なる知識の蓄積にとどまらず、自分自身の生き方について考えを深めるための要素を意識的に盛り込むことが必要だろう。
 具体的な取り組みとしては、職場訪問や出張講義などを、社会人の働く喜びや使命感に触れさせる機会として見直したり、職業研究の発表会などでも、「働くことの意味や目的」を述べさせるといった取り組みも考えられる。社会の中で自分がどのような役割を担っていけばよいか、そして何に価値を求めるのかを考えさせることが、今後の進路学習でより重視されることになりそうだ(図3)。
図3
ベネッセ教育総研「高等学校の進路指導に関する意識調査(97年、04年)」より。97年:高等学校 の進路ご担当先生・2学年主任先生3,131名、04年:進路ご担当先生1,765名が回答。

図3 97年度調査時には、ほぼ同程度の選択率であった、「5.望ましい職業観・勤労観の形成などに関わる指導」と「6.進路情報の理解と活用に関するもの」の変動が特徴的。前者の重要性が大幅に伸び、後者の重要性は明らかに低下した。これは、専門高校のみならず、4年制大への進学を前提とした指導を行っている高校でも同様の傾向。職業観・勤労観といった「価値観」づくりを重視する背景には、生徒が進路選択上必要な価値基準をなかなか持ちにくくなっている状況が指摘できる。
 その際に重視したいのは、自己を見直す活動としての「書くこと」の意義である。調べ学習等の成果をまとめさせている学校は多いが、同時にそこで「講師の生き方のどんな点に共感したか」「職業を通じてどのように社会に貢献したいか」といった部分にも踏み込んで考えさせれば、価値観形成や自己理解の深化にも有効ではないだろうか。
 なお、書くことを通したコミュニケーション能力の育成は大学からの要請でもあることを留意したい。図4に示したのは、大学人が学生に求める資質・能力と実際の学生の習得度との関係を図式化したものである。
図4

●ベネッセコーポレーション調べ(04年6月)。大学生14,582名、大学人(学長・学部長)942名が回答。

図4 「謙虚・まじめ」「協調性」などの資質について大学人の要求度と学生の習得度の間にはそれほど大きなギャップは見られない。しかし、大学人が学生に求める資質・能力として最も重視している「自己(言語)表現力」「文章表現力」「論理的思考力」といった力は、大学生の習得度との乖離が極めて大きい。進路学習と小論文指導の連携は、高校時代からこうした力を育成する取り組みとして有効である。

大学人が求める度合いが特に高い「論理的思考力」「表現力」で、実際の学生の習得度との乖離が大きい。自己表現ができる前提条件は、自分なりの価値基準を持っていることであるため、進路観の育成と、大学や社会で求められる「論理的に考え表現する力」の養成との連動には高い効果が期待できると言えよう。


PAGE 6/21 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse