ベネッセ教育総合研究所
特集 学校組織の機能活性化
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進路指導マニュアルによる目標の明文化
 教員集団の求心力を高める上でまず求められるのは、誰もが納得できる明確な教育目標の設定である。尾道北高校では、毎年更新される学校経営の大きな指針である「学校経営計画」をベースに、まず進路指導部が各学年について3年間を通じた教育目標を設定するところから、年間の活動がスタートする。
 「目標設定において重要なのは、検証に耐え得る具体的かつ明確な目標を示すことです。本校の進路指導部では、前年度の実績や地域からの要請を総合的に検討した上で、『進路指導マニュアル』という冊子の中に年次目標を明文化しています」(松井先生)
 図1に「進路指導マニュアル」の一部とその目標設定の手法を示した。
図1
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指導の各シーンにおいて、数値目標なども交えた厳密な目標設定が行われていることが分かる。特に進学実績については、進学校としてのプレゼンスを維持する観点から、東京大・京都大5名、難関大25名、広島大・岡山大30名といった明確な目標設定がなされている。これなら、日々の教育活動の中で何を目指すべきかが、どの教員にも明確に伝わるであろう。実際、1学年主任の船倉功先生は、「進路指導マニュアル」を使った指導の効果を次のように実感している。
 「『進路指導マニュアル』等を通した目標の明文化以前は、必ずしも明確なゴールを意識した授業は行えていなかったと思います。もちろん、進学校の教師として、『良い授業』を心掛けてはいたのですが、その結果に対する責任感を自覚するところまでは意識が深められていなかったのです。しかし、学校としての目標が定まったことで、授業の進度や扱う内容などについても、明確な到達目標を見据えた上で設定するようになりました。授業改善について議論する際にも、立ち返るべき基準ができたと思います」
 また、2学年主任の高田芳幸先生は、生徒の進路学習プランの策定においても、学校としての数値目標が設定された意義は大きいと言う。
 「地理的な条件から、本校の多くの生徒は入学時点で広島大や岡山大への進学先を志向しています。しかし、今後も学校のプレゼンスを高めていくためには、本来実力が高い生徒には、そのポテンシャルを最大限に発揮できるような指導・意識付けが必要です。『ポテンシャルのある生徒には東京大・京都大も視野に入れさせる』という指針があることで、早期の意識啓発の必要性、生徒一人ひとりの志望や学力到達度を詳細に分析する姿勢が、教師の間に根付いてきたと思います」
 だが、こうした厳密な目標設定は、一歩間違えば過度の管理主義として認識され、かえって組織を疲弊させることにもつながりかねない。また、教師によっては、このような目標設定自体に疑問を持つこともあるだろう。そこで尾道北高校では、毎年度の目標設定に当たり、外部比較を用いた具体的な目標設定を心掛けている。1年次の学力分布と進学実績をクロス分析すると同時に、それを、抱える生徒層がほぼ等しい他県の進学校と比較することで、納得度の高い目標数値が設定されているのだ。
 「実は数年前まで、本校から東京大・京都大へ現役で進学する生徒はほとんどいませんでした。そのため教師の間には『本当にそんな目標が実現できるのか』という暗黙の限界意識があったのも事実です。しかし、進学校である以上、進学実績に常に地域の目が注がれているのは事実ですし、ほぼ同じ学力層の生徒を抱える他県の進学校は、難関大にも対応できる学力養成にも成果を上げています。こうした現実を客観的なデータで示すことで、『本来は伸びる生徒を十分に伸ばせていないのでは』という問題点を明らかにし、先生方の問題意識に訴えることができるわけです」(松井先生)
 他校のデータと比較・分析することで、尾道北高校では、現実的かつ教員の意欲の向上につながるような目標設定を可能にしているのだ。


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