ベネッセ教育総合研究所
特集 学校組織の機能活性化
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「担任会」の活用による機動力のある組織運営
 さて、ここまでは組織としての目標共有に向けた流れを見てきたが、多くの読者にとってより関心が高いのは、目標を実現するための具体的な指導案がどのように企画・実行されているのか、という点ではないだろうか。多くの学校では、学年団が中心となってこうした業務を推進しているが、「会議の硬直化」「機動力の欠如」といった壁に突き当たり、マニュアルの前年踏襲に陥っているケースも少なくないと聞く。
 だが、尾道北高校の学年団は、そのような問題とは無縁のようだ。その背景には、学年会より更に小さな教員組織である「担任会」が、存分にその機能を発揮していることが大きいようである。
 「本校では、担任会が、学年運営上の大きな役割を担っています。担任会は、各クラスの担任に学年主任を加えた7〜8人のメンバーからなる組織ですが、生徒の様子はもちろん、教科に関わる話題や進路学習に関わるテーマについても盛んに話し合っています。学年のメンバー全員で話し合いをする前に、担任会で十分議論を深めているからこそ、学年会でも具体的な提案ができるのです。学年会の話し合いを充実させるためにも、担任会での話し合いは欠かせないものですね」(船倉先生)
 組織が機能不全に陥る原因は多々あるが、その最も大きな原因は、組織内での発言が形骸化し、活力を失ってしまうことにある。尾道北高校では、人数も少なく、機動力に富む担任会を、いわば「ミニ学年会」のように機能させることで、それを防いでいるわけだ。
 「担任会の開催ペースは2、3学年で週1回、1学年では週2回と一応決まっています。学年主任がリーダーシップを発揮する一方で、半分『井戸端会議』的な性格を持つ場でもあるので、言いたいことが存分に言える、内容の濃い会議になっているのだと思います」(高田先生)
 とは言え、せっかく活発な話し合いが行われても、単に言いたい放題の会議で終わってしまっては効果は薄い。そこで、尾道北高校では徹底した兼務主義を採用して、担任会での話し合いが実効的なものとなるよう留意している。
 「本校で担任を持つ教師は必ず進路、教務、生徒指導などの分掌や教科などで責任ある地位を兼務するようになっています。これにより、わざわざ学年団全員が集まらなくとも、担任のみで内容のある話し合いができるのです。各分掌というタテの流れと、学年というヨコの流れが交わる結節点としても、担任会は機能しているわけですね。一方、これはマネジメント論で一般的に言われていることですが、会議が一番機能を発揮しやすい規模というのは、7〜8名程度だそうです。これ以上会議が大きくなると、意思疎通が困難になりますし、小さくなりすぎると内容のある議論ができません。担任会の7人ないしは8人という人数は、この観点から見ると丁度適正規模と言えそうです」(高田先生)
 尾道北高校の組織運営における担任会の役割を模式的に示したのが図3である。
図3
進路指導部などが主導する形で進学指導を推進する場合、何の工夫もなしに実施すれば、進路から学年へと向かう意思疎通の流れは硬直化してしまうだろう。しかし、両者の間に機動力・創発性に富んだ担任会という小組織が機能することで、「進路から来た案件を揉む」(高田先生)プロセスが生まれているのだ。進路指導部の目標設定が学年で形式的に処理されず、「具体化」された目標へと転換する秘密はまさにこの点にあると言えるだろう。
 一方で、進路指導部→担任会→学年会という流れの全体を通して、人材配置の連続性が考慮されている点も注目される。特に、すべてのフェーズにおいて担任会に籍を置く教師が参加することは、学校全体の心理的な一体感を高め、教員の士気を向上させる面において大きな効果を生んでいる。実際、進路から示された進学実績の目標について、「実現不可能」あるいは「見直しが必要」といった結論が学年会で出されたことは、今までに一度もないそうである。
 「学校としての大きな目標を共有すると同時に、同じ生徒を見ている教員同士が『この生徒たちを絶対に伸ばしてやろう』と思えるような仲間意識を持てるようになるのが、担任会を活用した組織運営のメリットだと思います。相当厳しい目標値が示されたような場合でも、『何とかしよう』という空気が学年内に流れ出せばしめたものです。学年運営のコアとなる担任会の熱気をいかに学年全体に波及させていくかが、本校の学年主任に課された大きな課題だと認識しています。担任会で話し合いに使った資料は必ず学年会でも共有する、あるいは、短い時間でも必ず毎朝、学年団の教師全員が顔を合わせるようにするなどして、担任団とその他の学年の先生方の温度差が生じないよう留意しています」(船倉先生)


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