ベネッセ教育総合研究所
学校現場が長期休業を意義ある機会とするために 夏休みの指導のポイント
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theme2 国語〜読書指導
生徒に抵抗感を与えない読書指導
  国語で夏休みに力を注ぎたい指導の一つといえばやはり読書指導であろう。
  「いくら国語の授業で、文法や読解を学んだとしても、実際に読書をしないことには本当の読解力は身につきません。普段は部活動や学校の宿題で忙しい生徒でも、夏休みであれば翌日の予定を気にすることなく、読書に没頭することができます。その機会をうまく活用したいのです」
  F中学校で夏休み、冬休み、春休みの長期休業期間に生徒に課されていたのが「読書記録」だ(図3参照)。一つの作品を読むごとに、記録欄に作品名と作者、一口感想を書き込ませていく。
図3 読書案内と読書記録の例(クリックすると拡大します)
図3
▲読書は夏休みに生徒にじっくりと取り組ませたい活動の一つ。しかし、普段読書の習慣がない生徒は、どの本を読めばよいかわからない場合もある。そこで、生徒に薦めたい本(作品)の概要を書評のようにまとめ、生徒に配付する。生徒は、そこから興味を抱いた本を選び、読むことができる。読書感想文も生徒が負担感を抱かないよう、1行感想文とする方法もある。真に感動を覚える本に出合ったとき、生徒は1行という枠を超え、何行にも渡って感想を書き連ねていくという。
  その際に、本を読むのが嫌いな子、感想文を書くのが苦手な子でも、抵抗感なく本を手に取ることができるように、二つの工夫をしたという。
  まず一つ目は、1冊を読了した後ではなく、一つの作品を読み終えた後に、記録欄に作品名と一口感想を書き込ませていること。例えば、芥川龍之介のような短編作家の文庫本を読んだ場合には、1冊読むだけで一挙に記録欄が埋まっていく。それがうれしくて、生徒はさらに新しい本を手にとるといった効果が期待できる。
  二つ目は、「本を読んだ感想は1行でまとめなさい」と指導していること。これなら読書感想文が苦手な子でも、それほど苦労することなく取り組めるはずだ。それに面白い本に出合った生徒なら、「1行でまとめなさい」と言われても、2行でも3行でも書き込んでしまうものだ。
  こうした工夫に加えて、「夏休みの読書記録の課題が成功するかどうかは、1学期中にいかに生徒を本に親しませるかがカギを握る」という。
  「普段の国語の授業で、毎回本を1冊ずつ紹介するのです。B5の紙1枚に、本の内容を紹介した『読書案内』を書いて生徒に配り、数分間、その本の面白さについて話しました。週に1回は、本の読み聞かせもしました」
  この「読書案内」が印象的なのは、単なる本の紹介文ではなくて、教師自身のその本に対する感想がしっかりと書き込まれていることだ。佐野洋子作『百万回生きたねこ』の紹介文から抜粋してみよう。
  「人生は、だれでも一度だけです。でも、そんなこと、普段は意識なんてしません。永遠に生き続けられるようにさえ思っているときがあります。この絵本を読むたびに、『人生は一度だけ』と自分に言い聞かせます。永遠に生き続けられると錯覚している自分を叱りつけます」
  文章から、教師の「この本は面白いよ。考えさせられるよ」というメッセージが、ストレートに生徒に伝わるはずだ。こうした読書への誘いを、普段の授業のなかで地道に続けることによって、初めて夏休みに「読書記録」の課題を生徒に課す意味が出てくるのだろう。普段の授業で何の手だてもしないまま、「夏休みは本を読みなさい」と指導するよりも大きな効果を期待できるはずだ。
  F中学校の国語では夏休みを「基礎・基本を定着させる期間」としてもとらえている。
  「一斉授業では、生徒一人ひとりに対して細かい指導はできません。しかし夏休みであれば、一人ひとりの生徒とじっくりと向かい合い、その生徒に合った指導をするだけの時間的余裕があります」
  同校では、夏休み中の1週間を使って補充学習を開いている。国語が補充学習で行っているのは、文学史と文法だ。
  「とくに文法では、学習が遅れている生徒だけを呼んで、個別に指導しています。一対一で生徒と向き合うことによって、その生徒がどこでつまずいているかが見えてくるんです」
  例えば現代文の「動詞の活用の種類」なら、普段の授業では「動詞の後ろに“ない”をつければ、五段活用や下一段活用といった動詞の活用の種類がわかる」と教える。しかし補充学習で個別に指導するうちに、「行く」に「ない」をつけて「行かない」ではなく、「行くない」と答える生徒がいることがわかった。「この時点ですでにつまずいているんだ」と初めて教師は気づく。そこで、小学校段階に戻って、基礎から教えていく。このように夏休みを、「生徒に個別カリキュラムを与える機会」として活用しているわけだ。


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