ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 変わる高等教育
金子 元久
東京大大学院教育学研究科教授
基礎学力研究開発センター長
金子 元久
Kaneko Motohisa
1950年東京生まれ。シカゴ大大学院修了。共著に「教育・経済・社会」(放送大学出版会)などがある。
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Chapter1 国立大の独立行政法人化がもたらすもの
 第三者機関による大学評価、意思決定システムの改編など制度的枠組みが大きく変化する中、国立大はこれまでにない過酷な「競争」にさらされる。大学を取り巻く環境はどのように変わっていくのか、東京大の金子元久教授にお話をうかがった。

大学の再編は一段落今後は内部改革が進展
――国立大の独立行政法人化への移行を前に、これまでかなりの数の国立大で再編・統合が行われました。こうした動きはまだ続くのでしょうか。
 以前は99大学あった国立大が、一定の再編・統合が行われた結果、現在では89大学になっています(本誌04年2月号参照)。ただ、04年度以降は当分の間、再編・統合に向けた動きは沈静化すると考えられます。個々の国立大は6年間に渡る中期目標・中期計画を設定して国立大学法人へ移行するわけですから、必然性がない限り、文部科学省がすぐには再編・統合を認可しないだろうというのが一般的な見方です。これまで認可された大学以外で、地域をまたぐ大規模な統合構想を打ち出していた大学の多くも、計画を見直しているようです。
――全国的な再編・統合は落ち着いたと言うことですが、大学内部はどう変化するのでしょうか。
 独立行政法人になると、大学内の組織変更については、これまでよりもはるかにやりやすくなります。と言うのも、大学の意思決定について、学長の権限がこれまでとは比べものにならないほど大きくなり、変化に向けた方針を打ち出しやすくなるからです。そのため大学全体の再編・統合が一段落したこれからは、大きな内部組織の変化が起こるでしょう。
 特に財政問題や社会的貢献度などの問題から、これまで存在価値が問われていた学部・学科については再編速度は上がるでしょう。例えば、工学部の一部の学科は先端科学の変化に合わせ、再編・統合のスピードが増すでしょうし、法学部や経済学部など社会科学系の分野も位置付けが見直されるかも知れません。法学部出身者のすべてが法曹分野に進むわけではないし、企業に就職するのに専門的な経済学は必ずしも必要ではない。学部段階では幅広い教養を学び、大学院で専門性を深めるといった大学も出てくるかも知れません。さらに、大学間競争が激しくなると、国立大も私立大を意識して特殊なコースを設置したり、資格取得を優先した学科をつくったりすることも考えられます。
――文部科学省は教員養成系大学の再編・統合を進める意向を示しましたが、その後の動きはありますか。
 02年くらいまでは、全国的にかなりの動きがありましたが、教員需要が若干回復したこと、文部科学省が教員養成系大学に対する再編・統合の要求を緩めたことから、現在は一段落している状況です。ただ、教員養成系の学部については、その存在意義を改めて問い直し、これまでとは違う性格の学部に変えるという議論は起こるでしょう。例えば、教員養成を目的とした学部と、教養教育に重点を置く学部に分かれていくことなどが考えられます。


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