ベネッセ教育総合研究所
教育力の時代
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入学時の自己診断試験で、学生自身が補習の必要性を判断

 このeラーニングが主軸となっているのは数学の補習だ。補習授業は現在、1年生全体の約半数にあたる140人が受講。入学直後に高校レベルの数学の自己診断試験を受け、その成績を見て学生自身が補習を受ける必要があるか否か判断し、申し出る。「本学は、英語や国語だけでも受験することが可能なので、入学時の数学の学力差はとても大きい。そのため、学生も自分が補習を受けるべきかどうかおのずと理解できているようです」と雀部学長は言う。
 大学では、正規カリキュラムで必修の数学科目を、補習がつくクラスとつかないクラスの二つに分ける。1年次には必修の数学が週1回2コマ連続であり、補習つきのクラスはこれに引き続き1コマ分の補習の受講が課される。補習の単位認定はしない。特に同大学では、高校教員の教え方を高く評価し、補習から正規の数学科目までを担当する講師として招聘している。
 補習では、学生が自分の理解度に合わせて勉強を進め、質問などには担当教員1人とティーチングアシスタントの大学院生が対応する。コンテンツはネットで配信されているので、パソコンさえあればどこでも学べる。そのため、補習とは別に自宅や大学の図書館などで、授業で分からなかった内容を復習したり、予習をする学生もいる。授業前日には1週間のアクセス数全体の4割近くになるというから、多くの学生は翌日の授業準備のために利用していることがわかる。
 さらに、eラーニングの内容を補足するため、補習ではそれぞれ数人の学生に対し教員1人がついて対面で個別指導する「発展」「講義復習」「高校復習」の3クラスも設置。「少し先を学びたい」「講義内容や高校の数学をもっと復習したい」といったニーズにもきめ細かく対応している。学生は毎回、eラーニングによる補習クラスを含めた4クラスのうちから自由に選んで受講する。
 eラーニングの場合、一方通行の学習になりやすいという課題もある。そこで同大学では学生がどの問題に何回取り組んだか、ヒントを見たかどうかなど詳細な個別の学習状況が、ネットを介して集計できるようにした。教員はそれを定期的にチェックし、成績が芳しくないのに学習状況が悪い学生を呼び出し指導する。
 「eラーニングでは、教員が学生にコンタクトすることが肝心です。このシステムによって、学生は常に『先生に見られている』と意識するようになっています。それが学習意欲の維持につながっていると考えます」(雀部学長)
 実際、同大学では01年度と02年度の2回にわたり、eラーニングを使わずに高校教員などが講義形式で教える従来型とeラーニングの2方式のクラスを設け、テストの結果を比較。両年とも、eラーニングクラスの平均点のほうが高いという結果が得られている。
 「最近では補習クラスでない学生も『面白い』と言って利用するようになっています」と、雀部学長。
 同大学では次の段階として、eラーニングを、基礎から専門への橋渡しという「前向きな教育」にも活用することを考えている。具体的には、専門科目のデータベース化を図り、04年春から2年次の授業への導入を試みる予定だ。画面上では、例えばその科目で学ぶ方程式がどのように電気回路に応用されているかという発展的内容も表示。意欲のある学生が、専門領域をより深める形で予習できるようにする。また、コンテンツ化されていない専門科目においても、シラバスで講義に必要な既習知識を明示し、該当部分を事前にeラーニングで予習させ、授業の効率化を図るといった活用を考えている。
 一方、学外利用者の増加を受けて、ソフト配信をさらに広域で展開する構想もある。そのためには膨大なデータを管理、運営、配信する拠点を設ける必要に迫られるが、雀部学長は、この部分をビジネスとして学生に起業させ運営を委ねるという産学連携の可能性も示唆する。同大学のeラーニング事業が、全国、そして専門領域のどこまで裾野を広げるか、今後が期待される。


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