ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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法科大学院に見る行政支援
設置認可は厳格化するか?

 専門職大学院の開設や運営に、文科省はどのような施策で対応するのか。それを占う上で、法科大学院のケースを確認しておきたい。司法制度改革という「国策」の下で大規模に創設される特例であり、他の専門職大学院をこれと同列で考えることはできないが、一部の事業では包括的な予算を組むなど、文科省による位置付けの視点も見えてくる。
 04年度設置の認可を申請していた法科大学院のうち4校が認可されなかったことは、衝撃を持って受け止められた。ここ数年規制緩和が進む設置認可について、「文科省が厳しい姿勢に転換し大学選別を始めた」とする論調のマスコミもあった。
 同省の小松親次郎主任大学改革官は、これを明確に否定する。70前後の大学が同時に同じ分野の開設を目指した今回の動きを「明治以来初」と指摘、「教員の確保などで厳しい状況が生じた結果ととらえている」と話す。
 むしろ、03年度からは、一定の要件を満たせば自由に設置できるという準則主義の徹底を目指し、「審査会の方式も大きく変えた」(同改革官)というのが、文科省の立場だ。具体的には、従来は、設置に関わる基準が内規を含む複数の文書にまたがり不透明だったが、今回から全て告示以上で公に示した点を挙げる。また、認可校に対する「留意事項」は、これまで当該校に通知するだけだったが、初めて公表した。審査の観点を社会一般により分かりやすく示すと同時に、受験生への情報提供の一環とも位置付けている。社会の関心が高く選別のための情報が特に求められる法科大学院での実施を機に、設置認可の透明性を高めていく考えだという。
 一方で、専門職大学院の開設に携わった実務家教員など関係者の間では、審査会委員の構成に対する疑問の声も聞かれる。経済界の人も加わっているが、専門分野ごとに全く考え方が異なるカリキュラム設計などを異業種の出身者が審査できるのかという指摘だ。「対象大学ごとに当該分野の専門家を一定人数加えて組み直すなど、対応が必要」との意見も聞かれる。

財政支援はどうなる?

 法科大学院に対する財政支援として、文科省は
(1)私学助成
(2)学生個人に対する学費の支援
(3)国公私の専門職大学院全体に対する選抜型の形成支援
の3本柱で04年度の予算案を組んでいる(図表2)。

図表

図表2  文科省の04年度予算案
 関係者の間で特に関心が高かったのが、私学助成だ。当初、多くの私立大学が授業料を150万〜200万円で設定、70万〜80万とされた国立との格差を是正するための助成が求められた。文科省は概算で50億円を要求したが、昨年末の予算案編成で半分に削られた。「学費は受益者である学生が負担すべき」とする財務省と、「法曹の量の拡大と質の向上は国民全体に利益をもたらすから、税金による負担が必要」と主張する文科省の攻防の結果だ。私立46校の入学定員は3800人で、学生一人当たり約66万円の支援になる。
 これと、80万4000円に決まった国立の授業料を踏まえ、私立大学は相次いで授業料の値下げや減免制度を発表。優秀な学生の確保を狙い、大規模校は110万円前後の授業料を打ち出している。制度設計に関わった法曹などの間では、「過度の値下げで教育の質が低下しないか心配」との声も出ている。
 一方、学生への支援では、日本育英会等を再編統合した日本学生支援機構の奨学金事業で、現行月額13万円の有利子奨学金の上限を20万円に増額。法科大学院分として68億円を計上、全入学定員5590人のうち3500人に貸与できる規模とした。これは、社会人が高額の学費を借金で賄い“出世払い”で返すことを前提としたシステムともいえる。
 国公私立共通の形成支援経費15億円は、法科大学院を中心に、それ以外の専門職大学院も対象になる。文科省は「特色ある大学教育等支援プログラム(GP)の専門職大学院版」と位置付け、教育の内容や方法の開発、充実に取り組むプロジェクトを選定し、重点的な財政支援を行う。
 専門職大学院制度の趣旨にもとづき
(1)理論と実務を架橋する実践的教育の確立
(2)社会人の履修への配慮や地域に根ざした法曹の養成
などを選考基準にする。具体的には(1)では「知的財産や国際交渉などの実践的・先端的カリキュラムの開発」、(2)は「夜間・土日の授業開設やサテライト教室の設置」、その他「海外のプロフェッショナルスクールとの交流」などを例示している。  採択予定件数は、法科大学院が20件、それ以外は10件。6〜7月にかけて要項を通知して公募、9月頃選定結果を発表する予定になっている。
 以上のように、法科大学院に対する財政的なバックアップは、それ以外の専門職大学院と比べて手厚くなっている。その理由として文科省では、「法科大学院は
(1)司法制度改革の中核ともいえる国家的プロジェクトである
(2)各地で一斉に開学する点において他の専門職大学院と異なり、立ち上がり期の支援が特に必要と考える」と説明。法科大学院に対する開設時からの支援はあくまでも特例だとしている。


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