ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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課題にどう対応するか
高い学費、誰が負担?

 2年目を迎えようとしている専門職大学院制度には、すでにいくつかの課題が指摘されている。その一つが、実務家教員の確保や少人数教育による運営経費の増大で、高額な学費を誰が負担すべきかという問題だ。前述のように、文科省による専門職大学院への支援は手厚いとは言えない。社会人が多数を占める学生自身が負担するのが当然とはいえ、就学期間中に全額を自前で払える者は極めて少ないはずだ。
 ある教員は「大学のブランド力を高めるためにも、専門職大学院では学費を極力抑えて優秀な学生を集めたい。それが学部の授業料に転嫁されるのは従来通りの構造でやむを得ない。ブランド力がアップすれば学部の志願者も増えて収入が増加する」と話す。しかしこの「構造」については従来から批判があり、大学院の運営のあり方を根本的に問う声も。
 専門職大学院が求められる社会的背景を考えれば、各分野、業界ごとの関係省庁や企業、団体は、実務家教員の派遣に加え、経済的負担のあり方についても大学と共に積極的に議論すべきだろう。企業負担で学生を派遣するシステム以外にも、業界単位での奨学金制度などの検討が期待される。
 また、今後アメリカのように社会人学生が増えていくことを前提にすると、公的奨学金以外にも “出世払い”方式の学費支援システムを確立する必要がある。「長期的に考えた時の受益者が誰なのか」を明確にし、民間金融機関の協力を仰いだり保証人になるなど、産業界や行政が関与できる部分はあるはずだ。
 一方大学側は、企業等との交流が不可欠なこの教育システムを通して積極的にネットワークを広げ、授業料以外の財源確保に努める必要がありそうだ。例えば、現場のニーズを取り込んだ単発の有料講座を開発し企業研修を提供することなどが考えられる。その収益で経営の健全化が図れるだけでなく、教育内容をアピールし正規の学生確保につなげることも期待できる。

資格との関係の分かりづらさ

 資格要件との関係のあいまいさが、今後、専門職大学院制度に混乱を来す恐れはないだろうか。法科大学院のように基本的には修了がその職業に就くための必須要件となる分野と、そうでない分野が一つの制度の中に混在し、“重みに違いが生じているのが実情だ。制度のモデルとなったアメリカのプロフェッショナルスクールでは、ロースクールやメディカルスクールに限らず、企業で一定以上の役職に就くにはMBAが必要になるなど、実態として学位がキャリア形成上の要件になっているといわれる。
 文科省の小松改革官は「アメリカのプロフェッショナルスクールをそのまま移入することはできず、日本独自の制度を形成していくことになる」と話す。その理由として指摘するのが、高等教育と労働市場の結びつきに関する日米間の違いだ。「アメリカでは各分野で客観的なプロフェッション(職業的な専門性)が確立され、教育システムと密接に関連している。ロースクールもその一例。日本ではこうした関係をこれから構築していかなければならず、単に学位と職業資格を結びつければ解決できる事柄ではない」。
 しかし、文科省が目指す「日本独自の制度」の中身は今のところ不透明だ。従来型の大学院の中にも、ビジネススクールや福祉系など専門職大学院と重なる分野で社会人教育を行い、高い評価を得ているところがある。その多くが一定の実務家教員を抱え、少人数、双方向型の授業を掲げる。職業的な専門性を高めたいと考える人にとって、現状では、専門職大学院とそれ以外の違いが明瞭とは言い難い。従って今後、高等教育システムの全体的な見直しを含めた整理が必要になりそうだ。
 会計の専門職大学院を修了すると、公認会計士の国家試験で一部科目が免除になる。その他看護・福祉系でも、修了によって国家資格の受験資格が得られる分野がある。これらの大学院では、資格取得を目的とする学生と、取得した資格を生かし現場経験を積んでから学ぶ学生が同じカリキュラムで学ぶケースもある。その場合学生のレベルの格差が極端に広がり、よほどの工夫をしないと授業が成立せず、いずれのニーズも満たせなくなる危険性がある。
 MBAを掲げるある大学院の教員はこんな本音を漏らす。「学生の中には、目的意識もなく何か資格を取って転職したいという発想の人もいて、授業のお荷物になる。われわれは職場で実践的、長期的に生かせる教育を重視しており、学位や資格を前面に出すことには消極的。しかし、学生募集のためにはある程度アピールせざるを得ない」。そして、「日本の高等教育はどこかで明確に資格と切り離さないと、結局、学生の目的は卒業証書を手に入れることという、これまでの失敗を繰り返すだけ」と指摘する。


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