ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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3. 専門家を必要とする団体、機関等との連携
公開講座の企画を通し専門講座のニーズを実感


 横浜市立大学事務局で企画担当だった10年前、当時の文部省が生涯学習局のモデル事業として取り組んだ「リカレント講座事業」のコーディネートを担当した。補助金が出て、「地域ニーズに応えた大学が行うにふさわしい専門的」内容の講座を開催する事業だが、実質的には補助金が不要なほど、企画したほとんど全ての講座が成功した。それまでの大学公開講座ではあまり例のない、社会ニーズに応えた専門講座を年間約10本企画した。
 その動機は、アメリカの大学のエクステンションプログラムを研究した経験にあった。89年から2年間、横浜市役所から派遣されてUCLAの教育学大学院で高等教育を学んだ時、当時は日本の大学でほとんど取り組まれていなかったエクステンション(継続教育事業)に特に興味を持った。企画担当者はマーケティングの学位を持ち、独立採算による運営が基本。最も収益が高い「サティフィケート・プログラム」は、企業や団体からの要望を受けその時々に必要な知識を提供するコースで、修了証が昇任、昇給、転職へのライセンスになることが多い。まさに、受講者には自己投資として明確な位置づけがある。
 横浜市立大学で開催したのは、エイズの専門講座、アートマネジメント講座、サッカーの指導者養成講座などで、エイズの専門講座は横浜市衛生局が派遣受講者数を保証し、サッカー指導者講座は日本サッカー協会との連携で協会公認の「少年少女指導者」資格の基礎となった。
 実は、このような専門知識や技術を必要とする団体や機関はかなり増えている。当時、エイズに対する社会的不安が急速に拡大し、横浜市衛生局は保健所等で夜間の無料検査を実施する方針を決め、専門知識や相談技術を持つ看護師や保健師を必要としていた。またサッカー協会は、02年のワールドカップ日本開催を前に、技術・競技レベルの飛躍的強化のため1万人規模の指導者の養成が必要と判断。Jリーグチェアマン(当時)の川淵氏が、当時の横浜市長との懇談で大学レベルでの講座設置を希望したことが契機となった。これらの講座では定員を上回る申し込みがあり、専門講座に対する需要の高さがわかった。

専門職教育への昇華の可能性も

 もちろん、テンポラリーな専門講座が専門職大学院のプログラムに直接に結びつくわけではないが、これらの講座の主要な構成要素は、専門的な研究や教育に基礎を置いており、目的を明確にすれば、専門職大学院プログラムの企画に昇華させることは十分に可能である。
 例えばエイズの専門講座では、HIVウイルスに関する基礎知識、病気に至るメカニズム、感染予防の方法、治療やカウンセリングの基礎など、ウイルス肝炎やSARS(新型肺炎)の予防や治療にも応用可能な内容が含まれている。サッカーの指導者養成講座でも、運動生理学、スポーツ心理学・社会学、トレーニング理論、栄養学や健康教育、戦術論からコーチング理論、さらには地域総合スポーツクラブの運営など幅広い分野に関わる内容を持っている。



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