ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[04年度新設校に聞く]
天使大学大学院 助産研究科
〜「自分らしいお産」を支え、子育て支援や不妊治療も担う助産師を〜
保健・医療の進歩で教育改革が必要に

 助産師の役割は、不妊や更年期障害など女性のライフステージ全般、さらに子育てや性教育の支援へと拡大している。札幌市にある看護系の天使大学はこうしたニーズを踏まえ、新設する大学院の助産研究科で、技術と理論に支えられた質の高い助産師を養成する。
 かつて出産は、自宅で助産師が介助するのが一般的だった。1950年代以降、病院での出産の増加に伴い助産師の数は半分に減ったが、近年、再び注目を集めている。少子化と価値観の多様化の中、出産を大切なイベントと捉え「妊娠のプロセスを大事にして自然な方法で自分らしい産み方を」と考える女性が増えているからだ。妊娠の経過が正常であれば、助産師は妊婦の診査と出産介助を単独で行うことが認められている。機械や薬に頼らないケアを求めて助産所を選ぶ妊婦が徐々に増え、自宅出産を希望するケースも。
 従来から担っていたこれらの役割に関しても、医療技術の高度化に伴う教育改革のニーズは高い。医療では正常な経過を確認する方法として、触診から聴診、さらに超音波の画像診断へと進歩。一方で、助産師固有の役割も拡大している。子育て支援では、幼児虐待を防ぐため地域に根ざし妊娠期から一貫して関わる助産師が適任との声も。不妊治療では、高度化する技術について情報提供し心理的なケアができる新たな専門家が求められている。
 助産師の国家試験は、看護師免許またはその受験資格を持ち一定の助産教育を修めた者が受けられる。近年は、4年制看護大学や短大の助産専攻の修了者を中心に、年間約1600人が合格。実際に助産師として働く人のうち85%が病院等に勤務する。日本助産師会の会長を務める近藤潤子学長は、「現在、全国に2万人前後いると推計されますが、専門性の広がりを考えると最低でも2倍に増やす必要がある」と話す。
 天使大学大学院では、実務経験がある看護師、保健師を対象とする社会人枠に加え、看護大学等の新卒者や短大、専修学校の卒業生も認定試験を経て受け入れる。修了者には助産師国家試験の受験資格が与えられる。
 近藤学長は、大学院での助産教育の意義を強調する。他の看護大学での教員時代に、看護学と保健師教育を必修とするハードなカリキュラムに加え、助産学を選択し半年間で学ぶ学生の学習に不安を覚えたからだ。「2、3人の出産介助しか経験させられない大学もありますが、臨床経験として少なくとも10人は経験すべき」。

実習中も理論との往復を促す

 天使大学の母体は47年にでき52年には天使助産婦学校を開設、65年に短大専攻科に移行して00年から4年制に。近藤学長の方針で大学にはあえて助産専攻を設けなかった。完成年度に専門職大学院制度が始まるという願ってもない巡り合わせに。現場の助産師も、文科省に認可を求める署名活動などで支援した。
 カリキュラムには、近藤学長も参加する助産師教育協議会が長年検討してきた内容を反映。1、2年次とも講義は10週間程度で、助産の基礎知識やコミュニケーション、カウンセリングを学ぶ。残りの期間は実習で、1年次は道内の医療機関、2年次には全国の助産所でインターンシップを実施。この間も、医療機関には指導教員を配置し、助産所の学生には巡回指導するなど、実践と理論の双方向学習を促す。「産婆さん」と呼ばれた時代から蓄積された現場の勘と経験を、理論的に体系化する使命も負っている。実務家教員3人は開業助産師。授業の担当は年間6単位程度とし、実習生受け入れに力を注いでもらう。「制度上、教員の臨床を重視している点がありがたい」と同学長。
 アメリカの助産師教育機関では、看護師として相当の経験を経た学生が多いため平均年齢は30代半ばだという。「本学では、他の看護大から『助産師志望の学生がいるのでぜひ送りたい』という声が多く、新卒も多くなりそうですが、将来は、多少でも現場経験を積んで臨床的に成長し、本当に助産師をやりたいという学生を中心にしたい」と同学長。
 助産師として経験を積んで開業すれば、収入は格段に増えるという。開業助産師と契約する病院も増えるなど、技術と信頼に基づく実力本位の世界といえそうだ。



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