ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[04年度新設校に聞く]
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科
〜利用者に応じた専門性とマネジメント能力を備えた
スペシフィック・ソーシャルワーカーを養成〜
授業、演習、実習を一体化

 少子高齢化が進行する中、わが国の社会福祉制度は大きな変革を遂げ、現在の福祉現場ではより高度な専門性を持ったソーシャルワーカーが求められている。こうした状況の下、日本社会事業大学では、初の福祉系専門職大学院である福祉マネジメント研究科(1年制)を開設する。
 同研究科は、法人内の日本社会事業学校研究科を廃止して、スクラップ&ビルドの形で設立。専門職大学院の特質を生かして体系的で高度な実務教育を行う。
 「現在の福祉系大学院は伝統的に研究者の養成が中心で、実践的な教育の場となっていないのが実情です。本研究科では高度な実務能力を持つスペシフィック(専門分野に特化した)・ソーシャルワーカーの養成を目指します」と、常務理事の高橋重宏教授は言う。
 同研究科の特色は、現在の福祉現場で不足し、かつ強く求められている「マネジメント能力のある人材」の養成に力を入れることである。ケアマネジメントコースとビジネスマネジメントコースの2コースを設置。いずれも前期は福祉のどの領域にも対応したジェネリック(汎用性のある)・ソーシャルワークを学び、後期にはコースの目的に応じたスペシフィック・ソーシャルワークを学習する。卒業後に博士後期課程への進学も可能で、研究者への道も開かれている。
 ケアマネジメントコースは、高齢者、障害者、児童の三つの対象分野に分かれ、それぞれに特化した専門的知識と技術を修得する。
 「例えば医者や看護師は患者の病状しか診ませんが、患者と家族との関係性まで配慮し、家族全体を援助対象とするようなソーシャルワークができる技能を身に付けさせます」(高橋教授)
 ビジネスマネジメントコースは、社会福祉法人、NPO、福祉サービス企業などの経営者や幹部の育成を目指し、NPOの創設・運営や個人起業の方法、募金の集め方など福祉事業の経営管理や企画立案に関する高度な知識・技術を学ぶ。
 カリキュラムは授業、演習、実習を一体のものとして捉え、知識を実践に生かせるように工夫。例えばケアマネジメントコースでは、授業で事例研究などを通して対人援助技術を学び、演習ではその知識を生かしながら事例に沿ったケアプランを作成。実習では現場で立案したプランを実践する。
 指導は定員80人の学生に対して、14人の教員を配置。うち6人が児童養護施設の経営者や国立病院・福祉事務所のソーシャルワーカーなど医療・福祉現場に精通した実務家だ。修了単位数は50単位で、卒業後は福祉マネジメント修士(専門職)の学位が与えられる。
 なお、日本社会事業大学は厚生労働省の委託を受けた学校法人で、授業料・入学金は国立大学の大学院に準じている。私立の大学院に比べて負担は軽い。大学院生に対する独自の給付奨学金制度もある。

修了者に新たな資格認定も提案

 期待の大きい福祉系専門職大学院だが、第1号であるだけに今後の課題も多い。その主なものは、次の4点。
(1)福祉業務の未経験者と実際に携わってきた人とのギャップをどのように埋めるか
(2)社会福祉士の資格取得を目指す者に対し、1年間で国家資格試験に合格させ、さらにスペシフィック・ソーシャルワーカーとしての能力を修得させることができるのか
(3)「福祉マネジメント」という新しい概念を実践している施設が少ないため、現場実習先をどう確保するか
(4)社会に送り出す際に、福祉マネジメント修士(専門職)に対する評価をどう認知させるか。
 「福祉業務の未経験者や社会福祉士の資格がない人でも、入試で高いハードルを課すので、基礎能力は十分なはず。ハードな教学プログラムになると思うが、ゼミを中心とした個別指導で対応したい。また、現場実習では事前・事後の事例研究やディスカッションが大切。学内での研究を深めることで現場での体験の成果を大きなものにしたい」と高橋教授は言う。
 また、日本社会福祉士養成校協会などが中心となって、福祉系専門職大学院の修了者に対して「上級ソーシャルワーカー(仮称)」の資格を与えることを提案している。高橋教授はソーシャルワーカーの社会的地位向上のためにも、今後さらに同様の専門職大学院が増えることを期待している。



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