ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
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私費留学を目指す大学生の相談が増加

―相談者には大学生も多いそうですね?
笹田 自分の大学に交換留学プログラムがあるにも関わらず、留学の相談にやってくる大学生は多くみられます。彼らの多くは、留学先の大学の入学基準をパスする自信がないという理由から私費留学の道を選んでいるようです。大学は海外の大学と提携し、魅力的なプログラムを開発する努力をしているようですが、学生が要件となるTOEFLのスコアをクリアできないなど、ミスマッチも起きているようです。
 自分の大学の交換留学制度を知らないというケースもあります。大学は、実際に留学した学生のロールモデルを紹介するなどして、留学制度の十分なPRを行う必要があるかもしれません。
 また、自分の学びたい分野の研究が盛んな大学へ行きたいという理由から、大学の交換留学プログラムではなく私費留学を希望する学生もいます。単位の互換や休学制度の見直しなど、私費留学した学生がスムーズに大学に戻れるようなガイドラインがあれば、学生にとって有益だと思います。

学生の将来設計にも影響する留学アドバイス

―留学アドバイザーとして留意すべき点は?
笹田 大学の留学担当者には二つの役割があると思います。一つは、大学が提供するプログラムの責任者であるということ。これは、学生が留学して安全に帰国するまでを責任を持って管理するという大学サービスの一環としての役割です。もう一つは、留学を希望する学生の相談にのり、アドバイスをするという役割です。留学経験を通して大きく意識が変わる学生は多く、将来の進路を左右するケースも少なくないため、留学先をどこにするのか、それ以前に留学すべきなのかという見極めも重要になってきます。
 いずれも「正確」「最新」「公正」を基本とした情報提供を行い、中立的な立場で相談者と接し、信頼関係を築くことが必要です。
 アドバイザーは留学までのプロセスはもちろん、各国の教育システムと社会背景をきちんと把握し、学生の相談に見合った情報を常に素早く取り出せるような環境を整えておくのが理想的です。
 相談を受ける際は、まず、学生が留学までのプロセスで、どの段階で悩んでいるかを正確に把握した上で、必要な情報を提供します。口コミやメディアに頼ったものではなく、各国の大使館や教育機関のHP、担当者から直接聞くなど、必ずオリジナルの情報を確かめる姿勢が大切です。
図表
図表  留学プログラム担当者の役割
―カウンセラーとしての役割も重要と聞きます。
笹田 なかには、なぜ留学したいのか、留学して何が学びたいのか漠然としている相談者もいます。こうした場合、話をじっくり聞きながら、留学目的や動機が明確になるような質問を投げかけ、本人が自己分析を深められるようにすることも必要な役割です。
 当委員会で活用しているのですが、相談者にワークシートを書かせることも一つの方法です。なぜアメリカに留学したいのか、自分の気持ちを単語の羅列でもよいので文章化してもらうことが、目的を発見する手がかりになります。この時点で留学意識を明確化しておくことは、留学先を決定する糸口になるだけでなく、留学生活全体にも影響するため、大変重要なことと考えます。
 また、卒業後の就職を考えて留学する大学生も増えていますので、時にはキャリアデザインという視点からアドバイスすることも必要でしょう。大学であれば、就職関連の部署と連携した支援も有効だといえます。

―アドバイザーに求められる能力とは?
笹田 まず学生の話をよく聞くということが大切です。気を付けなければならないのは、アドバイザーとしてとるべき立場をきちんと自覚していない場合、無意識に個人の価値観を押し付けたり、学生の将来を方向付けてしまう危険性もあるということです。
 中立的な立場に立ち、いくつもの選択肢を学生に提示することで、最適な進路を学生自身が見極められるようなアドバイスを心掛ける必要があるでしょう。
 アドバイジング能力は、経験を積むほど、高まっていくと思いますが、自分の能力の限界を知り、専門家に相談したり、知識を広げるように努力するなどの自己研鑽することも重要でしょう。
 JAFSA(国際教育交流協議会)などの研修に参加して他大学の担当者と情報交換したり、人脈を作ることにより、知識や視野を広げ、自分なりのアドバイジングスタイルを確立することも大切だと思います。
写真
日米教育委員会の資料室。アメリカ留学に関する資料を多数揃え、パソコン検索もできる。


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