ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
PAGE 17/27 前ページ次ページ


オーラル教育は行われているが、従来型の文型、文法重視の傾向も

 吉田教授は文部科学省の委託で「中学校・高等学校段階で求められる英語力の指標に関する研究」を行っている。その中で新指導要領の内容を指標として、高校の英語教員の教育内容、教え方など教育手法をアンケート調査している()。その中間報告の結果は次のようになっている。

吉田研作教授がリーダーを務めるグループが、2003年1月に、高校の英語教員386人を対象に調査。「聞くこと・話すこと」の領域では、新学習指導要領の内容を踏まえる形で「身近な話題について英語で情報を伝えたり会話をさせる」など24項目の教育内容について、「どの程度実施しているか」を4段階評価させた。「書くこと」「読むこと」の領域も同様に複数の問いを設定。さらに、教育方法、教材選択など授業全般について新指導要領の示す方向性にどの程度配慮しているか聞いた。
 教育内容については、新指導要領で示された内容に沿った指導を英語の4技能でどの程度実施しているか、教員に自己評価させた(図表1)。
図表
図表1 高校の英語教員の教育内容・方法は新指導要領にどの程度従っているか

各領域の全項目について「全く行っていない」「ほとんど行っていない」…の評価ランクごとに回答者の総数を出し、その領域全体における各評価ランクの占める割合を出した。
 その結果、「読むこと」については、新指導要領に沿った指導を「かなり頻繁に行っている」「時々行っている」などの回答が合わせて7割以上と多かった。一方、「書くこと」では、「ほとんど行っていない」「全く行っていない」が合わせて5割を超え、4技能のなかで最も実施傾向が低いという結果が得られている。「聞くこと・話すこと」に関しては、アンケートの質問項目を詳しく分析した結果、基本的なオーラル・コミュニケーションはある程度行われてはいるものの、コミュニケーション自体よりも、その基礎となる文法や文型などを重視した教育に力が入れられていることもわかったという。
 また、教育手法に当たる「教え方、内容の扱い方」に関しては、図表1のように多くの教員が新指導要領に配慮していた。新指導要領に沿った教育手法を取り入れようという姿勢は見られるものの、教育内容、とくに「聞くこと・話すこと」の指導については従来型の文法、文型重視の指導に流れる傾向もあるということだろう。
 この調査では、英語教員が新指導要領に示されている通りに指導した場合の、生徒の英語力の伸びも調べている。英語力の指標には、客観テストとして「GTEC for STUDENTS 英語コミュニケーション能力テスト」を、主観的テストとして「CAN―DO調査(生徒自身による英語力の自己評価)」を用いた。その結果、新指導要領に沿った教育を行っている教員が教えた生徒は、英語力が伸びていることが示され、とくにCAN―DO調査での得点が高かったと吉田教授は言う。
 「客観テストでも、テストによってどのような英語技能を問うているか違いがあるため、本当の意味での英語力を見極めるのが難しい。一方、CAN―DO調査は、生徒の自己評価にすぎないにせよ、『できる』と答えた生徒には、自信の裏付けがあることは明らかです」。さらに、そうした自信は、新指導要領で求める「積極的にコミュニケーションしようとする態度の育成」にもつながり、実践力にも発展するのではないかと推測する。
 「新指導要領をきちんとやっていけば、英語の運用能力に関して相当高いところまで発展する可能性があると思います」(吉田教授)


PAGE 17/27 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse