英文和訳より要約、類推問題が増えつつある大学入試
吉田教授の研究では、もう一つ気になる調査結果が明らかになっている。全体的傾向を示すにとどまってはいるが、受験意識の高い学校で教えている教員ほど、実は新指導要領で示されている内容に則した授業をやっているというのだ(図表2)。
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図表2 学校の受験意識別に見た教員の新指導要領の実施・考慮具合
4段階の評価を1〜4の点数に置き換え、所属する学校の受験意識の高さ(回答者が判断)で分類された教員群ごとに、各領域における評価の平均値を算出した。 |
とくに、リーディングなど教科書をベースにした授業の場合に、その傾向は顕著だったという。吉田教授は、その背景を次のように説明する。「具体的にいうと、新指導要領では要約する、類推するといった学習を掲げているわけですが、こういう認知活動は、実際に英文を読むときにとても重要になります。それが大学入試にも求められつつあり、単に単語や文法の知識があれば解けるといった内容ではなくなってきています。その意味で、最新の入試問題の動向をよく分析している教員の方が、結果的には、新しい英語教育の流れに対応しているというわけです」。
入試の問題を分析したある調査によれば、英文の訳読問題が出題されるケースは1割程度だという。「それなのに、大半の高校では訳読を中心に教えている。高校教育と大学入試が乖離していると言われて久しいですが、現在では教員の教え方が古すぎ、入試問題が新しくなっていると考えられなくもないのです」(吉田教授)。
ただし、こうした新しい傾向の入試問題が、高校の教育現場で重視されてきているコミュニカティブな英語力を測る指標になり得るかという点に関しては、吉田教授は否定的だ。
「私たちが行った別の研究では、模試の成績と、CAN―DO調査での外国でどれだけ英語が使えるかを見る項目との間には全く相関がありませんでした。つまり、入試に対応した勉強で、必ずしも現代の英語教育に求められているコミュニケーション能力が身に付くわけではないのです。TOEFLなども同じで、問題集をやれば点数は上がりますが、それが英語の運用能力を高めることとはイコールではないのです」
最近の入試問題では、かつてのような文学などの難解な文章が減り、時事問題や現代的な話題についての文章が多い。それらは、授業でディベートやディスカッションなどの材料としても十分使えるものだ。したがって、高校で入試対策に特化せず、コミュニカティブな英語をやっていたとしても、入試の出題内容に比較的近いものに触れることは可能なわけだ。
「英語は入試科目の中で一番批判を受けてきたので、最も改善されているのではないかと思います。逆にいうと、大学にとっては、旧来の考え方のままで現代的な新しい感覚の入試問題を作るのは難しい、という新しい課題が生じてきているのです。これが、入試問題の外注にもつながっているのかもしれませんね」(吉田教授)
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