ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
PAGE 19/27 前ページ次ページ


大学の英語教育改革は学生募集の有効な戦略

 では、大学はどんな英語教育を提供すべきなのか。大学に入学するのは、必ずしも積極的に英語の学習に取り組んでいる高校生ばかりではない。中学からずっと英語が嫌いだったり、落ちこぼれてきた生徒もいるという現実がある。
 吉田教授は、現在の大学における英語教育は二極化の傾向にあるという。「一方では、高校で身につけた能力をさらに飛躍させる取り組みをしている大学があり、英語で専門科目の授業を行ったり、海外に積極的に送り出すような教育の仕組みが整いつつあります。しかしもう一方で、入学直後に中学の英語からやり直さなくてはならないところもあるのです」。
 後者に属する大学での英語教育を向上させるには、教員の資質向上が最重要だと指摘する。「6年間も英語でつまずいてきた学生を扱うのは、とても大変です。彼らはフォルスビギナー(false beginner)と呼ばれ、本当の初級者ではないのに初級者と同じ力しかありません。しかも、初級者は学習意欲が高いのに対し、フォルスビギナーは敗北感の固まりで、意欲も喪失しています。そのため、単位さえ取れればいい、という意識になりがちです。この状態から引き上げるためには、そうした学生に対する指導法を、大学教員がきちんと勉強しておく必要があるのではないでしょうか」。
 吉田教授の研究によれば、教員研修をよく受けている高校教員は、新指導要領に沿った教育を行う傾向が強く、それが生徒の英語力の向上にも結びついているという。大学でも同様だと思われるが、大学教員に対する研修は高校ほど盛んに行われていない。学会などでも研究発表が中心になりがちだ。「最近は、学生による授業評価を導入するケースが増えていますが、多くは個人にフィードバックするだけです。もちろん問題意識の高い教員には効果はありますが、評価の結果を議論しながら教育のノウハウを高めていくことができれば、大学全体としての英語教育力も向上すると思います」。
 高校の英語教育も入試英語も変わりつつある。大学における英語教育も変わらざるを得ない。吉田教授はこんな視点も提示する。「大学では教育改革が進んでいますが、学部の専門教育の充実もさることながら、優れた語学プログラムを開発して『うちの大学は語学がいい』と謳(うた)うのも、高校生への良いアピールになるのではないでしょうか」。
 実践的な英語力がつくということは、高校生にとって「実践的な経済学の専門知識がつく」ということに比べて、はるかに身近でイメージしやすい。その分、質の高い英語教育は高校生に大学をアピールする強力なポイントになり得る。学生の語学力を引き上げるような語学教育、そして国際化教育を充実させることは、大学の経営戦略として、極めて重要な意味を持っているといえよう。


PAGE 19/27 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse