ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
大阪女学院短大
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Report 2
英語教育と教養教育を統合した独自のカリキュラムを2年間に凝縮
 大阪女学院短大は、人類が直面している現代社会の問題を四つのトピックに絞り、それぞれのトピックに沿ったコンテンツベース(内容重視)の授業を英語で展開している。この取り組みが評価され、2003年度の「特色ある大学教育支援プログラム」にも採択された。
「“英語を学ぶ”ことよりも“英語で学ぶ”教育が重要」

 大阪女学院短大は、アメリカ人宣教師が1884年に創立した女学校を母体とする英語科のみの短大である。副学長の智原哲郎教授は、同短大の教育目的は、英語をツールとして現代社会の問題について考え、それに対する自分の意見を表現し、解決方法を探ることができる力を育成することだという。
 これまでの英語教育が「語学」にとどまり、読み、書きを含む日常的なコミュニケーションの訓練一辺倒だったり、ビジネスに使えるテクニカルなものを目指すことに疑問を覚え、1987年度から教養教育(人格形成教育)を英語で実施するようになった。智原教授は「スキルとしての“英語を学ぶ”ことよりも、“英語で学ぶ”教育のコンテンツを充実させ、国際人としての人間形成につなげることが大切です」と、英語による教養教育の重要性を強調する。
 このような教育方針のもと、同短大では、現代社会の問題として「平和の追求」「現代と人権」「科学と宗教」「生命の危機」という四つのトピックを設定し、それらに沿った内容の授業を英語で展開している。
 同短大では、全授業の約45%が英語で行われている。そのテキストはすべて教員によるオリジナルである。なかでもディスカッションやアカデミックライティングのテキストは、日本人と外国人の専任教員が中心となって作成にあたっている。「教員も、語学として英語が教えられるだけでなく、他の専門分野にも優れた人材を採用しています」(智原教授)。

一連の流れの中で知識をアウトプットする能力を養う

 1年次における授業の展開手法は「統合課程=Integrated Units(IU)」と呼ばれ、読む・聴く・話す・書くの4技能すべてについて英語で考え、表現する力を養う。学生たちは前述の四つのトピックについて、1トピック5週間ずつ、リーディング、ディスカッション、アカデミックライティングという一連の流れの中で理解を深めていく(図表)。
図表
図表  Integrated Units の授業展開
 例えば、「生命の危機」というトピックでは、世界の人口爆発に関する英語のエッセイ(論文)を読み、日本語に訳さずに内容を理解する。次にディスカッションに移り、世界の人口増加の原因は何かなどについて討論する。さらに他のエッセイも読みながら討論を続け、5週目にアカデミックライティングとして、自分の考えをエッセイにまとめ、発表する。一つのトピックが完結する時には、その問題について英語で考え、表現する力がある程度ついているわけだ。
 「リーディング、ディスカッション、アカデミックライティングの担当教員はそれぞれ違うので、互いの進捗状況を確認しあいながら、チームとして授業を進めています。また、授業についていけない学生についても対策を話し合います」と智原教授。
 また、これらの授業では「例証」「分類」「比較・対照」「原因・結果」「説得」等のエッセイの作成に必要な論理展開方法も学ぶ。例えば、「現代と人権」というトピックでは、子供の労働がどうして起こるのか、その結果どのような問題が発生するのかといった「原因・結果」を列挙する形でエッセイをまとめる。
 智原教授は、「教員が学生に知識をインプットしたら、学生自身がそれをアウトプットできる方法も身につけさせることが必要。今までの日本の大学教育は、インプットに偏重していた」と、国際化社会で通用するコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の養成の必要性を強調する。
 同短大では、入学直後に独自の英語のプレースメントテストを行い、A〜Eの5段階の習熟度別クラス編成による授業を実施している。1クラス25人程度の少人数の編成となっている。
 「習熟度別クラス編成にすると、下位クラスではやさしいテキストを使いがちですが、それは最初からこのクラスの学生は英語ができないと大学側が烙印を押しているようなもの。それでは学生は伸びません。本学では、学生の潜在的な言語能力は同じという観点から、どのクラスでも同じテキストを使います。ただし、日本人教員が受け持つリーディングの授業などでは、下位のクラスでは日本語を使用する割合を増やすなど、教え方には配慮しています」(智原教授)

ナチュラルスピードに慣れるため、海外ニュースをディクテーション

 2年次になると「トピックスタディーズI〜II」(4科目各2単位)として、1年次に学んだ四つのトピックから、各自が興味を持ったテーマを選び、さらに深く学んでいく。例えば、「平和の追求」では、「法と正義」「平和学」「日本の近代歴史からみた平和の問題」などのテーマが提示される。学生はそれらの課題や背景について、授業だけでなく図書館やインターネットを活用して自主的に調べ、ディスカッション、オーラルプレゼンテーション(口頭発表)、リサーチペーパーの作成を通して表現することを学んでいく。四つのトピックで計30のテーマがある。
 同時に日本語による授業でも、四つのトピックから計38のテーマが提示され、英語の授業にも役立つ背景や知識が増えるように工夫されている。ちなみに「平和の追求」では、「紛争の構造」「平和への課題」「国際政治とオリンピック」などのテーマを設定。
 また、「トピックスタディーズIII」(2科目各2単位)では、毎回、英語の海外ニュースを教材とし、国際的な政治・経済問題等についてのトピックを取り上げる。03年度は「ドメスティック・バイオレンス」「バグダッドでテロ」「イランの女性がノーベル平和賞受賞」などのトピックが出された。
 「今、世界で何が起こっているかを理解させるため、毎回扱うトピックが変わります。つい2週間程前に起こったことを教材に使うので、準備する教員側も大変ですが、学生たちはとても興味を持つようです」と智原教授。授業ではディスカッションに加えて毎週、英語で放送されるニュースを書き起こすディクテーションの宿題も出されるため、ナチュラルスピードで話される英語に慣れる訓練にもなるという。
 このような授業が展開されることもあって、学生一人あたりの図書館の平均貸し出し冊数は、年間50冊にものぼる。また学生へのアンケートでも、「知的レベルの高い授業が多い」では82.8%、「大学は学生に能力や個性を生かす機会を与えている」では71.1%の学生が、「はい」と回答している。
 しかし一方で、卒業に必要な科目の単位が取れず、留年する学生が毎年2割近くにのぼっており、これをいかに減らすかが目下の課題だという。ただし留年した場合も学費は2年分のみ。「04年度からは、卒業生によるチューター制を導入し、個別の学習サポートを徹底します。また、教員もこれまでオフィスアワーに空いた教室等で個別相談に乗っていましたが、学習サポートセンターを設置して、つねに相談に乗れる体制をつくります」と、智原教授は対策を説明する。
 このように学生にとって決して甘くはない環境であるが、「英語が好き」という漠然とした動機で入学した学生が、自分なりの目的意識や問題意識に目覚め、顔つきまで変わっていくのがわかると智原教授はいう。

「2年制あっての4年制大学短大への需要は必ずある」

 同短大では、在学中に海外大学への留学を希望する者も多い。現在、アメリカの七つの大学と提携しており、3年次に編入し、2年間で卒業できる。ただし留学に際しては、TOEFL550点以上が前提となる。智原教授は、「卒業後いったん就職して資金を貯めてから留学する学生が多い」と言う。
 04年度からは、短大の入学定員を減らし、それを振り替える形で4年制大学を開設し、国際・英語学部を置く。「短大教育に限界を感じてのことではない」と智原教授は断言する。「むしろ、2年制あっての4年制大学と考えています。2年間というショートサイクルでいろいろな可能性が広がることを示すことができれば、今後も短大への需要は必ずあるはずです」。
 学内では、短大を2年制コースと呼び、4年制大学における1、2年次の教育も、ほとんど短大と同じ内容にするという。智原教授は、今後、短大の卒業生が大阪女学院大学に3年次編入するケースが増えることを予測している。


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