ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
PAGE 6/24 前ページ次ページ


「短大ファーストステージ論」の提起

 こうした状況のもとで、筆者は1991年改革の短大にとっての意義を再定義する必要を強く感じるようになった。そして1995年に、それを「生涯にわたる高等教育のファーストステージ」と表現した(「短大を今、どうとらえるか」『キャリア・ガイダンス』1995年7・8月号)。「短大ファーストステージ論」の最初の提起である。つまり、1991年の教育制度改革で短大教育がターミナルなものではなくなった以上、短大は、単に年限の短い大学であることをやめて、大学教育の最も基本的なコアを修得する、意味ある節目の提供機関へと展開したと考えるべきである。
 たとえばファーストステージとしての短大を卒業し、セカンドステージとして専攻科や4年制大学で学士号獲得を目指す場合、卒業後すぐに目指すこともできるが、いったん社会に出て働いたり、ボランティア活動に従事した後でも開始できる。そうだとすると、短大は4年制大学以上に魅力的な機関に見えてくる。
 これまで企業は、採用に際しては学校歴を重視し、雇用した者には必要な社内教育を施すという体制であった。しかし現在は、学習歴を重視して採用し、必要な能力の形成は個人の責任とする方向に大きく変わりつつある。また仕事を離れても、社会生活や文化の享受のために高等教育レベルの学習が常に求められる。こうした社会に適合したシステムは、4年間という長期のものよりも2年の短期課程のほうが適合するはずだ。
 そして後に、このコンセプトを、短期大学基準協会における調査研究をベースにして、当時の東横学園女子短大学長の故高鳥正夫先生と共同編集した単行本のタイトルに用いた(『短大ファーストステージ論』東信堂、1998年)。
 そのような経緯もあり、ファーストステージという言葉は、関係者の口角に上り、一部の短大でキャッチフレーズとして使われるまでになった。例えば、最近発表された「山形県高等教育機能整備基本戦略」(2004年3月)の中では、県立短大の役割として「いわゆるファーストステージとしての機能」を挙げ、それを「高校卒業後にすぐに大学に進学するのではなく、短大での勉学を通じて進路や目的意識を明確化して大学に転入するための前段階としての機能」と説明している。
 ちなみに、アメリカで2年制大学の当該の機能がファーストステージと呼ばれるのが一般的というわけではない。カタカナ語としてのそれは、日本の短大の発展を希求して編み出した、筆者の造語である。アメリカの場合、大学編入プログラムと職業的な教育プログラムの区別が明確で、後者には4年制大学への編入が自動的には認められない州が多い。これに対して、日本の短大では、どの学科の卒業であっても編入や学位授与機構を通じての学士号取得が可能である。日本の短大こそ、高等教育のファーストステージ機能を十分に備えている。

アメリカでは日本の9倍強が短大に入学

 すでに述べたように、アメリカの2年制大学は、コミュニティ・カレッジとして編入教育、職業教育、コミュニティ教育の三つの機能を負っている。そのなかで編入教育は2年制大学に期待された最初の機能である。それは、高等普通教育(一般教育)を主体とする大学前期の教育は4年制大学から切り離し、独自に実施する方が高い質の教育を提供できるという思想から始まった。
 アメリカの2年制大学の嚆矢は1901年創立のジョリエット・ジュニアカレッジとされるが、そこで行われた教育は編入教育だった。「大学同等プログラム」とも呼ばれ、4年制大学の1・2年次に相当する教育課程を提供する。そこで編入課程を修了した者は、4年制大学の3年次に迎え入れられる。卒業後すぐに進学する者もいるが、多くはしばらく働いたり、旅行したりする。
 アメリカでは学年の新学期である秋学期だけで、90万人以上が編入学している。この中には2年制大学間の移動も含まれているが、主流は4年制大学に編入する2年制大学の修了者である。カリフォルニア州のようにすべての高校卒業者はコミュニティ・カレッジに入学できる上、一定以上の成績の者には編入学の受験資格を保証している州もある。またフロリダ州のように州立大学への進学は原則として高校からではなく、コミュニティ・カレッジの卒業生しか認めていない州もある。
 日本の場合、4年制大学への入学者60万4785人、短大11万3029人である(2003年度 文部科学省統計要覧より)。アメリカの総人口は日本のほぼ2倍であることから考えると、図表1で示したように、アメリカの4年制大学への入学者が129万2519人というのは、日本とほぼ同比率であることを示している。
図表1  アメリカの新規大学1年生の人数構成比(1999年)

図表

出典:NCES, Digest of Education Statistics 2002
 2年制大学の入学者数を比較すると、アメリカでは105万9413人という、日本の短大入学者の9倍強、人口比で5倍近い人数を擁しており、その存在がいかに大きいものであるかがわかる。


PAGE 6/24 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse