ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
PAGE 7/24 前ページ次ページ


コミュニティ・カレッジへの展開の提起

 ファーストステージ論の提起後、筆者は大学審議会の審議に参画し、1998年の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」では、「世界的には、職業人の再学習をはじめ国民の間の生涯学習需要にこたえるために適した制度として短期高等教育の充実を図る動きが見られる」の文言の挿入に苦心した。
 ちなみに、その事実を示すために実施した短期大学基準協会での海外調査(報告書は2000年3月刊)をもとに筆者が編纂し、刊行したのが、『短大からコミュニティ・カレッジへ』(東信堂、2002年)の一書である。この本では、アメリカ以外に、イギリス、スコットランド、カナダ、ドイツ、フランスの短期高等教育の状況が、各国・地域の高等教育の研究者によって紹介されている。そして、それらのほぼすべての国で、アメリカのコミュニティ・カレッジが陰に陽にモデルとされ、短期高等教育機関の強化政策が取られていることや、それらの機関にはファーストステージといっていい機能が期待されていること、卒業者には学位を付与する動きがあることなどが示されている。
 その後2001年6月に、文部科学省は、構造改革路線を進める経済財政諮問会議に対して、「大学を基点とする日本経済活性化のための構造改革プラン」を提出し、公表した。このプランは、「大学(国立大学)の構造改革の方針」とともに出されたもので、「競争と評価を通じ国公私立を問わず『トップ30』の大学を世界最高水準に引き上げるための重点投資」の提起が含まれており、その点に世間の注目が集中した。しかし、ここで注目すべきことは、このプランに「大学の社会人キャリアアップ100万人計画の推進」の一環としてコミュニティ・カレッジの整備という施策が明確に打ち出されたことである。
 その後、同年9月に経済財政諮問会議の方針を受けて、各担当省庁で策定された「改革工程表」の中に、「短大の社会人の再教育等に柔軟に応える機能(いわゆるコミュニティ・カレッジ)を強化(地域総合科学科の設置の推奨等)する」という一文が盛り込まれ、政策化されたのである。
 このような経緯を経て、文部科学省では短大基準協会と協力しながら、新しい学科のカテゴリーとして「地域総合科学科」を設定する作業が進められた。
 この地域総合科学科は、文部科学省の説明によれば
(1)分野を特定せず、学生のニーズに対応して、多様な科目を開設
(2)準学士をめざした2年コースの履修のほか、科目単位の履修や、複数の短期コースの組み合わせによる履修等、柔軟な履修が可能
(3)遠隔授業の活用、夜間コースの開設のほか、パートタイム学生の受け入れ等により、多様な履修形態を提供
(4)柔軟なコース選択と多様な履修形態の提供により、社会人の受け入れを積極的に推奨
(5)第三者機関(短大基準協会)による適格認定
を特色とする。
 つまり、地域総合科学科の特性は、学科を総合して、地域の多様な教育ニーズに応えるということにあり、それは、日本の短大の現状を踏まえ、そこにコミュニティ・カレッジのコンセプトを最大限に盛り込んだものといえる。
 そして、地域総合科学科の認定は2003年の4短大から、2004年には12短大に、一気に拡大している。これはとりもなおさず、(1)(2)の取り組みが、現代の若者のニーズにも適合したということを示している。



PAGE 7/24 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse