ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
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ニーズの変化に素早く対応

 地域総合科学科の開設は、文部科学省には従来の届け出だけで済み、短大基準協会に適格認定を申請する。複数の学科を統合して学科の位置付けが変わる場合も、既存の教員を中核に据えるため、認可申請ではなく届け出の手続きになる。既設学科のカリキュラムを見直し学科名を変更するだけなら、名称変更の届け出となる。事前に協会に相談し助言を得ながら改編するため、これまでに申請した学科は全て認定されている。
 文科省に対する手続きが簡素なため、社会の動きに合わせてタイムリーに開設したり、ニーズの変化に応じて毎年でも教育内容を見直せることが、メリットの一つだ。志願状況も「社会の動き」「ニーズの変化」のバロメーターとなり、定員割れの学科を統合し新たな分野を加えて地域総合科学科を開設する短大も目立つ。
 複数学科を統合する場合、設置基準上必要な専任教員はコアになる1学科分ということになる。「教員を削減し、その人件費で新しい専門分野の教員を非常勤で採用するなど、柔軟な人員配置が可能になる」と、短大基準協会では説明する。
 課題も指摘されている。真っ先に挙げられるのが、教職員の意識改革の必要性だ。社会人受け入れの仕組み作りが地域総合科学科の使命の一つだが、文科省によると04年度に昼夜開講制を敷いているところはゼロ。ほとんどが教員の負担が比較的軽い科目等履修生制度の導入に止まり、学内での合意形成の難しさがうかがえる。
 また、幅広い分野を学ぶシステムの下で履修指導をするためには、教員が専門以外の分野についても理解を深める必要がある。場合によっては、新しい分野を学び直し授業を担当する状況にも迫られる。こうした“試練”に耐える覚悟が教員になければ、地域総合科学科を作れないというのが、関係者の一致した意見だ。
 では、どうすれば教員の意識を変えられるのか。坂田理事長は「学生が集まらないという現実が最も有効な薬。このままではどうにもならないという危機感を共有すること」と言い切る。その中で決断を迫る強力なリーダーシップも不可欠な要素といえるだろう。
 地域社会との密な連携も、地域総合科学科の成功のカギだ。ニーズを汲み取るだけでなく、短大、学科自体がコミュニティを構成する一員として貢献することが求められる。そのような共生関係を構築することこそ、日本型コミュニティカレッジとしての地域総合科学科の使命でもあるはずだ。

文科省もHPでアピール

 地域総合科学科の適格認定を積極的にアピールする短大は、今のところ少数だ。4月中旬現在、ホームページで明記しているのは、上田女子短大、四条畷学園短大、広島文化短大など数校。ほとんどの短大はもっぱら「ニーズに合わせて多彩な学び方ができる」という中身の特色を前面に出している。地域総合科学科という概念が一般に浸透しておらず、宣伝するメリットが小さいためと考えられる。
 この点について文科省の担当者は「短大が個々にアピールするのではなく、連携して『全国でこれだけ増えている新しいタイプの短大』とアピールすることで認知を広げ、それぞれの地域での存在感を高めるべきだろう」と話す。同省でも3月中旬、ホームページに14短大16学科の一覧を掲示して各短大のホームページにリンクを張り、全体規模とそれぞれの特色を把握できるようにした。
 同省では3月から4月にかけ、これら14短大を対象に地域総合科学科の運営状況を聞くアンケート調査を実施した。内容は、学生募集状況、入試方式、教員組織の概要、カリキュラム、取得できる資格、社会人受け入れのための方策、自治体や企業など地域との連携、今後の課題など。先行事例の状況を把握し、設置を検討している短大に参考にしてもらえるようフィードバックする予定だ。


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