ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
富山短大
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実習後は必ず全学発表会を開催

 入学後は、高齢者などのケアでは避けられない生と死の問題を見つめてもらうために、必修で「人間と宗教」「人間と文学」といった科目を設定。積極的に学ぶ姿勢を養う狙いで、福祉関連のテーマについて10人ほどのグループで調べさせる「教養演習」も、1年次前期に設ける。学びの場をより広げてもらうため、必修で「ボランティア演習」も配置し、県障害者スポーツ大会の支援など各種ボランティアの紹介も行っている。
 カリキュラム中、最も力を入れているのは実習だ。1年次秋から、施設での4回の介護実習と、ヘルパーに同行しての訪問介護実習1回を実施する。期間は2、3週間ずつで計11週間。毎年、実習前には84施設に及ぶ受け入れ施設の実習指導者を集めて会議を開き、前年度の反省点を踏まえて実習指導の進め方を話し合う。
 学生に対しては、施設指導者から心構えなどを講義してもらうほか、何を学びたいかレポートを書かせて実習に臨ませる。実習終了後には、実践したこと、考察、課題を再度レポートにまとめさせ「実習報告集」を作成。実習施設にも送り、成果を知らせている。
 報告集をもとに、1、2年生全員が参加する発表会も開かれる。1年生の発表に対しては、2年生から質問やアドバイスも出るという。実習体験の整理や共有化を図るだけでなく、プレゼンテーション能力を養うことも目的の一つ。さらには1、2年生のつながりをつくり、互いに刺激を与え合う場にもなっている。報告集作成、発表会は実習が終わるたびに行われ、学生は少しずつ鍛えられていくという。
 2年生の卒業研究の成果も同様に「卒業研究集」に収録され、発表会で報告される。実習の発表会と異なるのは、在校生だけではなく、卒業生、施設の実習指導者、そして学生の出身高校の教員も招かれる点だ。毎年、20〜30人が訪れているという。
 「介護福祉士としての本格的な養成期間のうち3分の1は、施設などで指導してもらっているので、施設関係者にはぜひ学生たちの2年間の成果を見てもらいたいのです。また、高校の教員にも、卒業生の成長ぶりを知ってほしい」と、宮田教授は説明する。
 広く公開の場を設けるのには、もう一つ理由がある。介護福祉士は、地域社会という現場で用いる資格であり、地域との関わりなしでは成り立たない。しかも、養成校を卒業すれば無試験で取得できる資格である。それだけに、どのような教育を提供しているかが地域から問われることになる。
 「卒業研究発表会は、当学科がどのような介護福祉士を送り出そうとしているかを、地域の目で確かめてもらう良い機会だと思うのです。また、それが地域に対する責任だと考えています」と宮田教授は話す。こう言えるのは、レベルの高い介護福祉士を養成できているという自信があるからにほかならない。

卒業生限定セミナーを毎年実施

 卒業して間もない4、5月頃には、就職先への訪問指導も行う。同短大では、幼児教育学科など専門職を養成する学科で伝統的に実施されている取り組みで、教員が担当。施設などに赴いて、管理職などに卒業生の仕事ぶりを聞き、本人がいれば直接声をかけ職場への適応・定着を支援する。まだ職場に慣れていない卒業生にとって心強い励ましになりそうだ。
 さらに、年に1回、「リカレントセミナー」を開催し継続的な学習支援に努める。多忙な現場に入ると、学習する機会は見つけにくくなる。同学科では、施設や社会福祉協議会など地域の福祉関係者などを対象として、著名な外部講師に福祉の最新動向について講演をしてもらう「福祉学科公開セミナー」を150人規模で行っている。しかし、リカレントセミナーでは対象を原則として卒業生に限定。テーマも、ハウツーものなど現場ですぐに役立てられる知識・技術を選んでいる。昨年の口腔ケアをテーマにしたセミナーには、50人ほどが集まった。卒後教育は5年と銘打っているが、毎年卒業生全員に葉書を送り参加を募る。参加者の多くは20代前半で、本来は卒業生が対象だが、最近は職場の同僚など他校出身者を誘って来る人もいるという。
 「今後、事例検討やケアマネジャー資格取得のための研修も行いたい。将来的に、学内学会を立ち上げるのが夢です」(宮田教授)
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リカレントセミナーでは、現場ですぐに役立つテーマを設定。実習などを交えることも
 同学科の一連の教育をみると、高校生や在学生、卒業生に対し、非常にきめ細やかな対応をしていることがわかる。一方、実習施設に教育成果を常にフィードバックすることで、施設側にも学校と一緒になってより良い人材を養成しようという意識が育まれる。地域を巻き込んだ教育体制の下、養成される介護福祉士たちは、介護の現場からも「しっかりしている」「積極的に高齢者の立場に立った介護をする」などの高い評価を得ている。


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