ベネッセ教育総合研究所
特集 リーダーシップが生きる職員組織
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競争的な環境作りもトップの役割

――新学部の設置によって、具体的に学内にどんな変化が起こってきたのですか。
清成 最大の変化は、学内にいい意味での競争意識が生まれたことです。新設学部が四つもできると、既設学部との間でどうしても競合する部分が出てきます。
 例えば、国際文化学部は文学部の英文学関連分野、現代福祉学部は社会学部の社会福祉分野、情報科学部は工学部の情報関連分野などと、それぞれぶつかります。
 これは一種の学内競争になりますから、既存学部は、より現代的なニーズに合った新学科を作ろうという方向に動き出します。その結果、経済学部に国際経済学科、社会学部にメディア社会学科、文学部に心理学科、経営学部に経営戦略学科と市場経営学科、工学部にシステムデザイン学科と、次々に新学科が誕生したのです。

――法政大学では、教員の危機意識が改革を成功させたといわれているようですが。
清成 確かに危機意識はあったと思います。何しろ59年度以来、学部の新設がなかったのですから。もっとも、初めからそのことを強く意識していたとは思えません。本学では毎年、いくつもの教学改革が進行しています。これだけ改革があると、「改革が当たり前」という雰囲気になってきます。つまり、現実の改革を通して、知らないうちに意識改革が進んだのだろうと思います。その結果、10年前に比べ、教員の意識は大きく変わりました。

――まさに、改革が改革を生む環境になったわけですね。
清成 トップがいくら大学改革を叫んでも、それだけで全員がついてくるわけではありません。実際に改革を行うのは、大学の個々の構成員であり、彼ら自身がそれぞれ新しいことに挑戦しようとしなければ、改革は進んでいきません。学内に競争的な雰囲気を作り出し、改革が走り出す環境を整えることは、トップの大きな役割の一つといっていいでしょう。

――トップのビジョンを改革方策として具体化していくには、優秀なスタッフと迅速な指揮命令系統も必要だと思われます。
清成 「21世紀の法政大学」審議会の答申には、大学の戦略部門整備が必要だとして、総長室を作るべきだとの提案がありました。それを受けて、すぐに総長室を作ったのですが、これは改革スピードを上げるのに非常に大きな効果がありました。
 当時、似たような役割を担う部署として総合企画部がありましたが、ここで総長室の設置を検討させると、どうしても自分の組織の存続が前提となるため、思い切った組織作りができなくなる可能性がありました。そこで、組織研究を専門とする教員や適任の職員を集め、総長の特命事項として、企業の社長室など、戦略部門の成功例を研究させ、それをもとに97年度に総長室を立ち上げました。
 その結果、全学に関わるような改革の懸案事項は、総長室プロジェクトとして推進していくことができるようになりました。必要に応じて外部の人材も登用しながら、総長室で具体的な政策を練り、実行に移していったわけです。現在は、総長室の中に企画戦略本部を設け、ここで大学全体の企画戦略を練っていますが、意思決定のスピードは格段に早くなりました。

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綿密な計画と周到な準備が必要になることも

――大学は多くの機能をもった複雑な組織ですから、トップの意思を末端まで浸透させていくシステムも必要ではないでしょうか。
清成 本学は11学部を擁する総合大学ですが、民間企業風にいえば、年商440億円、従業員1300人程度の中堅企業ということになります。ほとんどの大学は、こうした中小企業のレベルですから、周知徹底という点は、それほど難しくありません。

――大学では、教授会と理事会の対立がよく指摘されますが、経営も含めた大学全体のトップとしてみると、それは大きな課題なのでしょうか。
清成 弊害がまったくないとはいいませんが、それをことさら強調するのは、結局はトップの改革への努力やリーダーシップが足りないことへの弁明に過ぎないのではないかと思います。教授会にしても、実際にはそんなに分からず屋ばかりではありません(笑)。

――自らのビジョンや改革の方針を納得させることも、トップに必要な資質といえそうですね。
清成 時間をかけてでも、納得させることが必要な場合もあります。例えば、本学では92年度に社会人を対象とした日本で最初の夜間ビジネススクールを設置しましたが、これは10年前から構想していたものです。当時は18歳人口のピークでしたが、10年後には急減期の到来が予想されていたので、生涯学習に対応する社会人の大学院を作ろうというビジョンを温めていたのです。
 しかし、学内はその提案を受け入れる状況にはなかったため、当時の学部長と、教授会主任(学部長補佐)だった私は、5年後に研究所、10年後にビジネススクールを設置する目標を掲げ、シンポジウムの開催から始め、産業界との連携を深めながら、最終的な目標である大学院設置を果たしました。このように周到な準備をしながら、徐々にビジョンを浸透させていくことも、ときには必要なことだといえるでしょう。


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