ベネッセ教育総合研究所
特集 リーダーシップが生きる職員組織
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(3)行政管理職層(部長・課長などのアドミニストレーター)

 国・公立大学の場合はもちろんのこと、私立大学にあっても事務局組織は基本的に官僚型組織である。官僚型組織では、管理職は名前の通り、自分の所轄の組織を管理し、仕事を管理し、職場を管理し、部下を管理するポジションである。つまり、管理職は下を向いて仕事をする。担当係のデスクは書類の山であるが、部課長のデスクには書類がなく、いつも整頓されている。仕事は下から上がってきて、それを決裁するのが管理職の役目である。
 それは、人事異動によって定期的に職場を移っていくゼネラリストの世界に特有のものでもある。ゼネラリストの価値は組織全般にわたる仕事の経験からくる、組織のいわば常識とでもいうものを判断基準として身に付けていることである。社会の常識はともかく、組織の常識は体現しており、穏当な決定の質が確保されるというメリットが「売り」である。
 しかし最近では、新しいタイプの管理職が求められるようになってきた。これを筆者は「プロフェッショナル型アドミニストレーター」と呼んでいる。
 それはゼネラリスト型というよりは、何らかの専門性(スペシャリティー)をもってそれをベースに仕事をするという、スペシャリスト型を加味した新しいスタッフである。しかし、これまでのスペシャリストのように、狭い専門性の中に閉じこもるのではなく、組織全体の展望を視野に入れたなかでの専門性の生かし方を常に考える、いわばゼネラリストとスペシャリストのハイブリッド型プロフェッショナルである(図表1)。

図表1 プロフェッショナル型のアドミニストレーター

図表

※プロフェッショナル型アドミニストレーターにとって政策的視点は必須で、その中でもAのように幅広い視野と一定の専門知識を持つ者、Bのように深い専門知識があり視野もある程度広い者など、いくつかのタイプが考えられる

 したがって管理職も、下から上がってくる仕事を決裁するという管理タイプの仕事だけでなく、自らも専門性に立脚した仕事を抱える「プレーイング・マネジャー」なのである。彼らのデスクは進行形の仕事であふれ、専門知識や能力を常に高度化する努力は職場外の時間にも続けられている。
 さらに、プロフェッショナル型アドミニストレーターには不可欠の要素がある。それは、「政策提言能力」である。
 ゼネラリストの持つ視野の広さとそれをベースとした常識的判断力に加え、スペシャリストとして専門的な判断を行うことは、新しいプロフェッショナル型のスタッフにとって基本である。しかし、それだけでは新しいタイプの管理職とはいえない。真に新しいアドミニストレーターであるためには、それらに加えて「政策提言能力」が求められる。
 「政策提言能力」とは、現実の問題点を正確に分析・把握し、それを改革・改善するために必要な施策を方法論も含めて示す能力のことであり、「問題発見・解決能力」と言い換えてもよい。
 これら二つの新しい特徴を持ったプロフェッショナル型アドミニストレーターは、もはや従来の官僚組織に存在していた下向きの案件決裁型管理職ではない。トップや役員層に向かって革新的な企画を提案していく、いわば上向きの経営支援人材としての役割をも果たすことになる。
 かつて筆者の所属していた慶應義塾大学も事務組織は典型的な官僚組織であり、従来下向きの決裁型管理職が多かった。しかし、SFC(湘南藤沢キャンパス)設立当初の新しい職場では、主要事務スタッフがプロフェッショナル型の管理職として学部長を支える形が整った。教・職間のコラボレーションが成立し、SFCにおける経営と教学の抜本的な改革に貢献することができたのである。
 ところで、組織における意思決定やマネジメントのスタイルとしてよく知られているものには、トップダウンとボトムアップがある。それに対してあまり知られていないのが、ミドルアップダウンというスタイルである。
 野中郁次郎という経営学者により唱えられた、日本の組織における意思決定の特徴的スタイルである。日本の組織は、一般的にはボトムアップが特徴と思われているが、実は数多くの組織ではミドルアップダウンによって、経営的効果を上げている実態が明らかになった。それは、どういうものか。
 日本企業のなかでは少数の優れたミドル層が経営層に働きかけて、自分の主張や提案を組織の意思決定につなげ、承認が取れると同時に部下に指示し、実現に向けてリーダーシップを発揮する。そして彼らが次代を担う経営層に育っていくのである(図表2)。

図表2 意思決定とマネジメントの型

図表

 大学組織においてもミドルアップダウンの組織環境が整えられる必要がある。そして、新しいプロフェッショナルとしてのアドミニストレーターこそが、ミドルアップダウンの意思決定スタイルにおいて中心を担うコア・スタッフなのである。
 では、政策提言能力を発揮するための条件はなにか。それはまず、発想の根幹が組織の特定部分の最適化を目的にした「部分最適志向」ではなく、組織全体の最適化を目指す「全体最適志向」を貫くことであろう。「部分最適志向」こそセクショナリズムそのものであり、そこからどのくらい自由であるかが提案の評価の指標となりうる。
 もう一つの評価の視点は、外部環境へのよりよい適合(外部環境を変えることも含めて)を目指す「戦略志向」が、発想の中に組み込まれているかどうかということであろう。
 これまでの官僚型組織は内向きで、外部のステークホルダーと接触するスタッフの比率も低く、外部環境の変化にあまりにも感度が鈍かった。それゆえ変化への適応力が発達せず、経営的に競争力の弱い組織だった。今後は顧客志向、マーケット志向、サービス志向を徹底させて、戦略的経営力を強化する必要がある。
 したがって、政策提案の質の向上は、「組織の全体最適志向」と「戦略志向」という二つの原則を満たす必要がある。


(4)現場の専門職層

 大学の教育と研究面での革新で重要なことは、教員組織と職員組織の狭間に注目することである。ここに多様なニッチ業務が存在し、それを新しい専門職の機能をもって埋めていく努力が、教育と研究機能の向上を促す。
 これまで述べてきたトップからミドルに至る経営・管理職能に即していうと、専門職はいわば組織のボトムにあって経営的には極めて重要な先端機能を担う集団であり、その存在を制度として明確に位置づけることが不可欠である。
 これら専門職制度のあり方についても提言しておくと、これまでの伝統的専門職の狭い分類ではなく、もう少し大きなくくりでの、より応用の利く広範な守備範囲の専門職を制度として確立し、人材を養成していくことが望まれる。



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