ベネッセ教育総合研究所
特集 リーダーシップが生きる職員組織
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「前例・横並び主義」からの脱却

 公務員の行動原理を一言で言い表せば、「前例・横並び主義」である。法令によって行政を進めることを本旨とする公務員にとっては、その法令の適用に当たって、恣意が入ってはならないし、差別があってはならない。法令がいい加減に運用されているとなると、行政機関に対する信頼感が失われてしまう。行政には継続性、安定性、予測可能性が必須なのである。
 こうした性格を持つ行政を実行する公務員にとっては、「前例・横並び主義」という行動原理は必要不可欠なものであり、また、さまざまな事案を処理していくに当たっての効率的な問題解決手法ともなっている。
 そのため、公務員は研修や職場で、こうした行動原理を習得するよう、常にトレーニングを受けている。定型的でかつ想像力を要しない事務をこなしていけばよい時代には、「前例・横並び主義」に長けた公務員が最も優秀であるとの評価を得る。大学の事務組織の場合は、それに加えて、先に触れたように企画立案機能は持たず、本省が決めた方針を実行する執行機関だったことによって、その傾向はより強かっただろう。
 しかし、法人化後は「最も優秀だった公務員」が、「最も能力の低い職員」となる。これからの国立大学の事務組織が、その大学にとって戦略的に最も重要な位置づけを得られるようなパフォーマンスを示すことができるかどうかは、実はこうした長年のトレーニングで培われた価値観や行動原理から、事務職員が抜け出せるかどうかにかかっていると言ってよい。
 財務運営・会計実務、人事体系、施設整備、労働安全など、新たな運営システムすべてに前例はない。文部科学省からの「指示待ち症候群」という病気で休んでいる暇はもうないのである。
 また、他の独立行政法人がやっているから、他の大学がそうするらしいから、といった横並びの発想では、自大学の個性は出せないし、他大学をいつまで経っても追い抜けない。
 事務職員がこれからこなすべき仕事は非定型的な業務であり、想像力をもって事に当たっていかなければならない時代なのである。


今存在している人材の再活性化こそ重要

 前段と矛盾するようだが、実は「最も優秀だった公務員」は、「最も優れた(法人化後の)大学職員」の最も有力な候補者なのだ。それは、あるシステムに最も適応した人材は、違うシステムにも最も適応する能力があるからである。
 前段で言いたかったことは、人材の評価基準を変えなければならないということだ。そのことによって、あるシステムの中で適応能力がないとの評価を受けていた人材も、違うシステムの中ではその潜在能力を開花させ、なくてはならない人材に変貌を遂げることも大いにありうるからだ。
 現在、いくつもの大学において、事務職員の枢要なポストに外部から人材を登用することが盛んに行われているが、外部の価値観を移入し、内部に刺激を与えるという意味では悪いことではない。
 しかし、学長をはじめとする執行部は、今存在している人材の再活性化に重点を置くべきである。執行部自身が国立大学法人化の趣旨を正確に理解し、事務組織及び事務職員に適切な価値観と行動原理についての指針を示すことが最も重要なポイントである。
 幸い、法人化に際して、事務局強化の必要性は、各大学執行部に認識されており、事務職員の活性化に向けて、研修その他のいろいろな試みが行われている。それらの試みに加えるための一つの制度的工夫を提案しておきたい。
 それは、事務職員の人事評価プロセスに、その職員が属する部局の長を正式に関与させることである。これからの国立大学の事務組織は大学ごとに自律し、その大学の学問的価値や社会的地位を高めていくことが、使命として明確に認識されなければならない。単なる大学関係の法令の執行者であったり、教員の業務遂行のお目付役であってはならないのである。
 事務組織の力と教員の教育研究能力とが有機的に連携することが不可欠な時代にあって、事務職員の人事権や人事評価権が本部や本省に残存しないよう、所属する部局長に事務職員の評価とトレーニングの責任を持たせることが必要である。当然、一方で部局長自身の評価基準の中にも、事務職員人材育成についてのパフォーマンス評価を加えるべきである。
 つまるところ、組織は人と人とがよい連携関係を築くことで機能するのだ。互いの喜ぶ顔をみて、自分もこの仕事をやっていてよかったと思える瞬間が、人材を活性化していくのである。教員と事務職員との関係がこのようなものに進化していってもらいたいものだ。



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