「前例・横並び主義」からの脱却
公務員の行動原理を一言で言い表せば、「前例・横並び主義」である。法令によって行政を進めることを本旨とする公務員にとっては、その法令の適用に当たって、恣意が入ってはならないし、差別があってはならない。法令がいい加減に運用されているとなると、行政機関に対する信頼感が失われてしまう。行政には継続性、安定性、予測可能性が必須なのである。
こうした性格を持つ行政を実行する公務員にとっては、「前例・横並び主義」という行動原理は必要不可欠なものであり、また、さまざまな事案を処理していくに当たっての効率的な問題解決手法ともなっている。
そのため、公務員は研修や職場で、こうした行動原理を習得するよう、常にトレーニングを受けている。定型的でかつ想像力を要しない事務をこなしていけばよい時代には、「前例・横並び主義」に長けた公務員が最も優秀であるとの評価を得る。大学の事務組織の場合は、それに加えて、先に触れたように企画立案機能は持たず、本省が決めた方針を実行する執行機関だったことによって、その傾向はより強かっただろう。
しかし、法人化後は「最も優秀だった公務員」が、「最も能力の低い職員」となる。これからの国立大学の事務組織が、その大学にとって戦略的に最も重要な位置づけを得られるようなパフォーマンスを示すことができるかどうかは、実はこうした長年のトレーニングで培われた価値観や行動原理から、事務職員が抜け出せるかどうかにかかっていると言ってよい。
財務運営・会計実務、人事体系、施設整備、労働安全など、新たな運営システムすべてに前例はない。文部科学省からの「指示待ち症候群」という病気で休んでいる暇はもうないのである。
また、他の独立行政法人がやっているから、他の大学がそうするらしいから、といった横並びの発想では、自大学の個性は出せないし、他大学をいつまで経っても追い抜けない。
事務職員がこれからこなすべき仕事は非定型的な業務であり、想像力をもって事に当たっていかなければならない時代なのである。
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