ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
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情報提供と個別アプローチで教員を巻き込む(藤田)

松高 先ほどの藤田先生のお話によると、アメリカのキャリア教育は、教員が中心になっている点で日本と大きく異なるようです。実際、日本で大学のキャリアセンターの職員と話すと、教員の協力が得られないことが最大の悩みだと言われます。なぜそうなるのでしょうか。
小杉 私も、そこが一番の課題だと思います。職員は教員に比べると社会との接点に近いところにいるため、問題意識がより高くなるのでしょう。就職課をキャリアセンターに転換する流れも、そうした人たちが作り出してきました。一方教員は、職員ほど就職市場を知らないため、そこで何が求められているかという問題に対する感度が低いといえます。
藤田 私も教員ですから耳が痛いですね(笑)。ただ、教員の側にもエクスキューズはあります。我々は研究と教育で賃金を得ていますが、学内の委員会など管理運営の仕事もボランティアでやり、非常に忙しい。その上、キャリア教育までボランティアでやれと言われても手が回りません。
 この際、どこまでが教員の任務であり報酬の対象なのかを明確にすべきではないでしょうか。場合によっては、キャリア教育も職務として位置付け、報酬を上乗せするという経営判断があってもいいと思います。アメリカの教員に「ここでの教授職はフルタイムですか」と尋ねると、専任教員であっても「ファカルティとの雇用関係でいえば、70%フルタイムといえるかな。給料の30%はキャリアセンターから出ているから」という答えが返ってくることがあります。所属学部での教育、研究に加え、キャリア教育も職務に位置付けられ、報酬を得ているわけです。
小杉 お金で表すと確かにわかりやすくなりますね(笑)。
藤田 すべてを報酬に反映させることが必ずしもいいとは思いませんが、キャリア教育も組織への貢献の一つであり、ボランティアではエネルギーを割く優先順位がおのずと下がってしまいます。教員も最近はキャリア教育の重要性を認識しつつありますから、きちんと評価する仕組みさえ作ってもらえば、意識が変わるのではないでしょうか。
松高 経営的判断で教員を動かすには時間がかかりそうです。教員を巻き込むため、職員がすぐにでもできることは何でしょうか。
藤田 そもそも教員は、学生がどこに就職して今どうなっているかさえ知りません。職員はそうしたデータを積極的に提供すべきです。ニューズレターを発行するのもいいかもしれません。それから研究室を訪ね個別にアプローチする。教員は学生だけでなく職員にとっても利用価値の高いリソースであり、「意見がほしい」と言われて断る人はいないはずです。地道な働きかけで教員の中にシンパを作っていく戦略が必要でしょう。

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