ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
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社会理解と自己理解を統合させる教育を

 次に大学でのキャリア教育はどうあるべきかについて、私の実践を踏まえての考えをまとめることにしたい。大学の教職員に話を聞いてみると、各大学あるいは担当する教職員によって、キャリア教育の捉え方は大きく二つのタイプに分けられる。
 一つは資格取得等の講座を充実させ、就職率を高めることに重点を置く「出口指導重視」のタイプである。もう一つは、まず自己理解(自分の興味、関心、能力そして適性といったものを考えさせること)から始めて、卒業後の人生での自己実現(自分の持ち味を生かし、充実した質の高い人生を送ること)の支援を目的にする「キャリア形成重視」のタイプである。現在はまだ前者のタイプが多く、後者は少数派であるが、徐々に「キャリア形成重視」の指導に切り替える大学が増えつつあるようだ。
 実際に、後者のようなキャリア教育に積極的に取り組んでいる大学のカリキュラムをいくつか拝見する機会があった。その内容は進路指導の基本に則って「自己理解」から開始するもので、各種検査や自己理解シートの記入といったものが多い。これらは、すでにほとんどの高校で実施しているが、大学卒業後、社会でどのように生きていきたいのかということを、あらためて主体的に考えさせる体験的・発展的な内容であることが望ましい。
 そのための具体的な取り組みとしては、まず「インターンシップの充実」が挙げられる。自分が就きたい仕事を実際に体験できるインターンシップが自己理解や社会を理解する契機としての役割を持つことは、高校での実践からも確かである。1、2週間程度の単発的なものに終わらせるのではなく、低年次の段階から数回に分けてなるべく長期にわたって体験させることが必要であろう。その際には参加しようとする学生を増やすこと、支える事前・事後の指導態勢を整えることが必要なのはいうまでもない。  次に「社会理解の促進」が挙げられる。「自己理解」はキャリア教育において重要な位置を占める。しかし、それは「社会理解」と相互補完的な関係においてのことである。学生は現代社会と隔絶した空間に生きているわけではない。社会理解と自己理解の両者が学生の思考の中で統合されることで、将来の生き方として適切な方向性がもたらされることになる。それらの指導を就職課やキャリアセンターの職員だけで担っていくことは困難だ。
 大学の教員が教育という場面において、それぞれの担当科目を通じて社会の現状について関心を持たせ、考えさせるということに、これまで以上に意識的・意欲的であっていただきたい。分野によって違いはあろうが、教員自身が研究者としての役割のみに重きを置き、現代社会の動きに対しては切実ではないということでは困るのである。このことは、入学時から全学で、そして学生生活全体を通して実施していくことが肝要である。

求められるのは職員の意見の迅速な反映

 近年、大学・短大の学部学科の新増設、改組や学生募集についても度々アドバイスを求められる。その経験の中で気づいたことがある。現場の職員の意思が、大学全体の運営に反映されるまでの時間や度合いに大学間でかなりの違いがある、ということである。
 高校生の実情や進路担当者の要望といったものを最も早く的確に把握できるのは、入試課や広報課の職員である。同様に企業の採用動向や求める人材像については、就職課やキャリアセンターの職員が一番よく知っている。大きな転換期にある大学にとって「入り口」と「出口」の現状に日々直面している職員の意見や提案をいかに迅速に施策に反映できるかは、とても重要なことである。
 このことは、キャリア教育を実施する場合にも当てはまる。日本キャリアデザイン学会等への参加を通して、大学や高校、企業におけるキャリア教育の先進的な取り組みの情報を積極的に入手し、それらの情報に基づいて学内のキャリア教育の内容をスピーディーに充実させることが望まれる。



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