ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
絹川正吉
「特色ある大学教育支援プログラム」実施委員会委員長
絹川正吉


1929年生まれ。53年東京都立大学理学部数学科卒業(理学士)。国際基督教大学教養学部長を経て、96年から04年3月まで同大学学長。03年度から「特色GP」の実施委員会委員長を務める。著書に『学士課程教育の改革』(共編著・東信堂)ほか。
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【特色GP:寄稿】
教育評価の課題と可能性
「取り組みのプロセス」を留意点として明確化

 03年に続いて2回目となる平成16年度「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」の審査経験をまとめておきたい。審査は、03年度の審査の留意点を若干改めたものに基づいて行われた。留意点の変更の一つは、「取り組みのプロセス」に関する記述を求めたことである。取り組みの実施においてどのような困難があったか、それをいかに解決したかについて記してもらうようにした。
 前回の留意点であった「公共性」の視点は、その趣旨が徹底しなかったので、04年は表現を改め、例えば「学生の人間的成長の重視」「社会の要請への応答」といった項目に分解した。さらに、「将来性(発展性)」を追加留意点とした。
 審査の留意点の一つである「組織的な取り組み」については、申請側に誤解があった。取り組みが単に教授会で決議されていれば、組織的であるということではない。大学や学部全体による共同的な営みになっているかが問われているのである。プロセスの記述は、この意味で「組織的」に取り組まれたかどうかを検証することが目的で、大学の構成員(教職員)がどのように関与してきたかが問われるものだ。
 「特色GP」で求められるのは、大学として組織的に取り組んでいる教育内容である。そのことを評価するために、全学的な関わり方を問うのである。この視点は、教育のプロセスを評価しようとしていることにほかならない。

採択されやすいテーマを意識する傾向も

 教育は、イベントではない。その本質は、審査留意点にもあるように「真摯な教育努力を継続的に積み重ねている」ことである。「特色」とは、必ずしも独自性を意味しない。あくまで教育の質の改善に当該取り組みがどのような意義を持っているのかを評価した。
 テーマ4「課外活動」とテーマ5「地域連携」については、特に基本的教育活動との関連を評価した。そこで明確に留意したことは、例えば福祉に関する取り組み自体が社会的に意義ある内容であっても、それがその大学の学生の教育に直接に関わるものでなければ、評価しないということである。
 2回目の申請内容を見て感じたのは、採択されることに目標を置いてしまうため、「採択されやすいテーマは何か」を意識する傾向が出てきたことだ。明らかに03年の事例を手本にして申請書を準備したようなケースが見られた。採択されることをゴールに据えて教育方法を変えるというのは本末転倒で、あくまでも自分の大学の学生には何が必要かという視点から教育を見直すことが本来のあり方ではないか。「特色GP」は、そのような真摯な姿勢を評価するためのプログラムであることを理解してほしい。
 一方で、「国立大学の採択率が私立大学より高いのではないか」という指摘がある。しかし、国立大学の採択事例を見ると、医療系、工学系、およびいわゆる「大学教育センター」に関わる事例でほぼ半数を占めている。これらの分野は多額の資本を必要とし、国が財政手当てをしている国立大が独占することは当然といえる。単純に表面的な数字を見て、国立大優勢と見るのは正当ではない。
 私大には多様性と発展性がある。「教育の発想」で勝負する時代になってくると、私大の強みが断然出てくるのではないだろうか。私大はユニバーサル化の大波を真正面から受け止め、様々な困難を乗り越えて来た経験から、教育に関する発想源を豊富に持っている。それらを開発することが大いに期待される。大学の大多数を占める私大がアクティブでなければ、日本の高等教育に希望はない。


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