ベネッセ教育総合研究所
特集 コンペ型事業を考える
教育ジャーナリスト
日本私学教育研究所所長
山岸駿介
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【寄稿】
教育・研究コンペ型事業の功罪−真の“大学支援”にするために
トップ30がCOEになり、特色GP、現代GPに発展

 「教育・研究コンペ型事業」の震源地は、2001年6月に登場した「遠山プラン」である。これは、当時の遠山敦子文部科学相が経済財政諮問会議に提出した「大学(国立大学)の構造改革の方針」で、その中で国立大学の再編統合と法人化、そして競争原理の導入と国公私立を通じた「トップ30」構想が示された。最も関心を集めた「トップ30」の育成は、「世界的な研究教育拠点の形成(21世紀COE)」として具体化された。
 だがそれだけで終わらず、「特色ある大学教育支援プログラム」(GP)へと発展した。さらに文部科学省が直接審査する「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」まで作り、大学を国策遂行のための協力機関にするところまで来た。マスコミの反対も、大学の抵抗もないまま文科省の独走が続いている。
 この特集ではこれらを「教育・研究コンペ型事業」と総称しているが、「コンペ型」という言葉に施策の狙いがソフトに表現されている。荒々しい言い方をすれば、文科省が大学の聖域だった研究と教育に手を突っ込み、「競争原理を導入」したことになる。
 文科省の05年度予算要求書では、「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援の充実」と名付けられ、766億円が計上されている。多額の予算ではない。04年度は449億円だった。これで日本中の大学がからめとられたともいえるし、大学に活性化への歩みを促した起爆剤だという評価もできる。文科省と大学の関係を考える上で、良くも悪くも画期的な施策の予算であることに間違いない。
 「トップ30」構想が打ち出された時には国立大学の間で激震が走ったが、公私立大学も目の色を変えた。当初はマスコミも大学も上位30大学の選別構想と捉えたが、結果として出てきたのは21世紀COEだった。
 これまで研究者当人以外はほとんど知らなかった研究の中身や計画を、学長も知ることができるようになった。他人からとやかく言われるなど、とんでもないと思われてきた研究の「秘密性」が崩れたのである。小学校で言えば「学級王国」に穴が開いたようなもので、画期的なことだった。
 だがCOEは、博士課程の大学院があり、しかも研究力の高い大学間の競争であって、一般の大学との関係は薄い。そんな大学にも同じような機会を与えてほしいという要望が、私立大学の中から上がり、文科省に「教育COE」の検討を求めたのである。「うちの大学では世界的な水準の研究は無理だが、教育なら国立には負けない」と言う私学人に私も何度か会った。

文科省も慎重になった「教育の競争」事業

 文科省の担当者はためらったという。「教育に行政が介入しないというのは、先輩たちから教えられてきたことだから」と。しかしそうはいっても役人である。今までなら絶対反対の声が上がるようなことを、大学の側から「やってほしい」と言ってきたのだ。千載一遇のこの機会を見送ることは考えられない。
 話は少しそれるが、筑波大学は旧文部省の施策の実験場として使われてきた。東京工業大学も似たところがあるらしいが、文部省が考えていたいろんな試みを受け入れてきた。裏返して見れば、文部省にとって他の国立大学は何を言っても一切協力してくれないし、私大はなおさらである。それが今回は、やりたくてもできなかったことを大学の方から求めてきた。
 それでもこのプログラムの責任者は「慎重だった」と言う。だから、「教育COE」という略称を極度に嫌がった。GPという略称を思いつくまで、「特色ある大学教育支援プログラム」と言い続けたのは、研究は競争させられるが、教育は競争ができないし、させてはならないと考えるからだ。
 教育は、建学の理念とかその大学の特徴などによって違うもので、それをA大学は1番でB大学は2番などと判定することはできない、と説明してきた。私は、文科省が大学教育に政策的に介入することに反対だと当初から書いてきた。今は問題がなくても、将来、抜き差しならぬ関係になるかもしれない。しかし役所として実施する以上、行政担当者のこの慎重さは評価する。
 GPは、コンクールでなければ何のためにするのか。それは「審査によって評価された優れた実践を参考にして、それぞれの大学の教育を良くしてもらうため」だという。評価などの作業は大学基準協会に委託し、審査も実施委員会に任せ、文科省の影を極力消すように努めていた。


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