ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
 
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専門学校との機能融合は必然

―カリキュラム面の規制をなくした場合、高等教育機関はどんな方向に向かうのでしょうか。

大沼
 社会の要請に基づき、様々な産業分野で世界をリードして活躍できる人材の養成機関となっていくでしょう。日本の私立大学は現在、厳しい競争環境にありますが、そのこと自体はいいことだと思います。大学がそれぞれの価値観に基づいて個性豊かな教育を提供し、互いに切磋琢磨していけばいいのです。そのためには、様々な分野を融合した学際分野、複合分野で、次々と新しい学問を生み出していかなくてはなりません。
 文化学園は大学、短大、専門学校を擁していますが、学生募集では専門学校の文化服装学院が圧倒的な強さを持っています。それは、既存のどんな高等教育機関にもない新しい分野を切り開いてきたからです。家政学としての被服ではなく、商品としての服の研究や、生産工学・商品工学との融合、ファッション業界との連携、流通の変化への対応など、社会のニーズを反映させ、オリジナルの教育体系を作り上げてきました。
 ところが大学の設置審査では、こうしたカリキュラムや教員を評価できないため、大学として認可されることは無理。だから専門学校のままで展開してきました。カリキュラムの規制を取り去れば、オリジナリティと国際競争力のある大学教育が登場する可能性があると思うのですが。

―専門学校のような教育を、大学がやるようになるということですか。

大沼
 社会の変化に対応する中で大学と専門学校の機能が混ざり合うのは必然的なことで、悪いことではないと思います。すでに大学はエリート育成機関ではありません。リベラルアーツを目指す大学があってもいいし、専門教育を目指す大学があってもいい。答申でも大学の機能を七つに分類して提示していますが、各大学が選択的に機能分化し、必要な教育を提供していけばいいのです。

―そうなると、大学教育の質というものをどう考えればよいのでしょうか。

大沼
 大学教育の質という言葉は、どうしてもドイツ流の学問体系に端を発する旧来の大学のイメージを引きずりがちです。しかし専門学校でやっている教育も立派な学問です。新しい分野を切り開いていかなければ、世界に伍していけないのですから。従来の学問をベースに考えるのではなく、国際社会の中で先導的な位置を占め、世界に向けた情報の発信基地になるようなものを産学連携で作り上げていくことで、教育の質を保証していけばいいのです。今や75%以上の人が高等教育にアクセスしている時代なのですから、質の議論もそれを前提として行うべきだと思います。
 特にこれからの日本社会は、より高度化することが求められています。社会のあらゆる階層の人の教養や技術の質を向上させる必要があり、高等教育はそのためにあるといっても過言ではありません。指導者育成はもちろん重要ですが、それについては特に政策的な手当てをしなくてもこれまで通り継続されるはずです。目を向けなければならないのは、これまで中等教育段階にとどまっていた人たちを、高等教育レベルに引き上げることです。



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