ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
吉田文
メディア教育開発センター教授
吉田文
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【INTERVIEW】
米国にみるディプロマミルの問題
教育の質を保証する仕組みの機能不全が背景に
 中教審答申では、ディグリーミル(ディプロマミル=学位販売機関)の出現抑止について言及している。アメリカでは、インターネット上の学習だけで卒業できるバーチャル大学が登場したことで、手口はますます巧妙になっているという。eラーニングの実情に詳しい独立行政法人メディア教育開発センターの吉田文教授に、その実態や日本での出現の可能性について聞き、高等教育の質をどう維持していくべきかという考えも語ってもらった。

州ごとに異なる基準、「大学」を簡単に設立

 ディプロマミルとは、大学を名乗り学位を販売する業者を指し、アメリカではディグリーミルよりこちらの名称がよく使われます。その範囲は広く、金銭を振り込むだけで学位証明書を郵送してくるところから、人生経験や職業経験を単位に換算し、その上で不足分を簡単なコースワークで勉強させて学位を発行するところまで、様々な機関が存在しています。
 アメリカの研究者によれば、現在、数百ものディプロマミルが存在しているとのことです。ただ、ディプロマミルと通常の大学との間に明確な線を引くのは容易ではありません。アメリカでは、実に多様な形態の大学が存在するからです。
 大学の設置には州の認可が必要ですが、日本の設置認可ほど厳格ではなく、しかも州ごとに基準が異なるため、場所によっては簡単に「○○大学」という名称の機関を設立できます。数年後、アクレディテーション団体から認定を受け、名実ともに正規の大学として社会に認知されることになります。たとえアクレディテーションを受けていなくても、州の認可があれば学位を発行できるわけですから、ディプロマミルの“ビジネス”には何の支障もありません。仮に教育内容について外部から指摘を受けた場合でも、彼らは拠点や大学名を変更して生き延びるのです。
 アクレディテーションを受けることは義務ではありませんが、それが連邦政府の奨学金受給資格や企業の採用条件になっているため、ほとんどの大学は認定を受けます。ただし、アクレディットの有無でディプロマミルの判別はできません。宗教法人や企業が設立する大学では、きちんとした教育をしていても、アクレディテーションを受けない、あるいは受けられないところもあるからです。また、ディプロマミル自らが設立した架空の団体が認証を行っているというケースもあり、それに惑わされることもあります。
 正規のアクレディテーション団体はその上位組織であるCHEA(高等教育基準認定協議会)に登録されていますが、その数は60以上もあり、一般の人には正式な団体かどうか容易には判断できません。アメリカでは、職業経験の単位への換算は正規の大学でも行っていることも、判別を難しくしています。ディプロマミルと正規の大学との境界に、広大なグレーゾーンが広がっているのです。
 最近では数多くのオンライン大学が登場し、判別はますます困難です。立派なウェブサイトさえあれば、最小のコストで学生を集められます。物理的な条件は必要がないので、世界中どこからでも発信でき、またアクセスできます。他方、その実在を把握することは困難を極めます。



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