ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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体験学習で自立心を目覚めさせポジティブな意識を育てる
[産能短大]
「主として教育課程の工夫改善に関する課題」で採択された産能短大が、教育課程の中核として位置づけているのが「課題実践」だ。2年生が対象で、学内外からの要望を受けて課題を設定、その解決策の立案から実行まで、学生が主体的に取り組んでいく。この取り組みを通して、マネジメントに必要な基礎的能力が培われる。


学内からの発注でより高い効果

 産能短大は教育の柱に据えてきた専門ゼミナールを1996年度に廃止し、3年間のトライアル期間を経て、99年度、総合的な体験学習による全く新しい科目「課題実践(8単位)」を開設した。
 「課題実践」の課題は、学生総合サービスセンターを通して学内外から入ってくる様々な要望や依頼がもとになって設定される。
 例えば「障害者・高齢者対象のパソコン教室」は、障害者や高齢者にとってわかりやすいパソコン講座を開いてほしいという地元世田谷区のNPOからの依頼を受けて設定された課題だ。学生が講座内容の企画からテキストの開発、運営を行い、マンツーマンで講師も務める。
 「ビジュアルな学校案内の制作」という課題は、学内の広報担当部署からの依頼を受けてこの演習に組み込まれた。学生は企業などの様々な広報ツールを集めて分析し、どんな学校案内がビジュアル的な効果が高いかを検討したうえで、実際の制作に移る。
 このほか03年度の「課題実践」では、学外からの要望に応えた「自由が丘シティガイド支援」「NPOの業務改善・リサーチ業務」、学内からの依頼を受けた「高校生対象ウェルカムイベント実施」「卒業生対象ホームカミング業務支援」など、16の課題が設定された。


座学から体験学習への転換

 森脇道子学長によると、このような思い切った教育課程の改革の背景には、次のような経緯があった。産能短大は経営マネジメントを中心とした社会人教育を掲げて50年に開学。「ビジネスに強い」というイメージが定着した。ところが90年代半ば頃から、卒業生から「最近入社してくる後輩がどうもおかしい」という声が聞かれるようになった。
 表現力・実行力がある、打たれ強い、キャリア意識が高いといったそれまでの卒業生のカラーが、最近の後輩に感じられなくなってきたというのだ。「これは本学にとって、大変重要な問題だと思いました」(森脇学長)。
 能率科FD委員長の池内健治教授もうなずく。「学生から『働く』という意識・意欲・能力を引き出すためには、それまで一方通行の授業であった座学の専門ゼミナールより、双方向で、総合的な体験をする授業が必要だということになったのです」。
 そこで、教育課程の改革を進める組織として、教員による教育研究推進委員会を立ち上げた。同委員会はその後FD委員会と名を変え、新しい授業形態について検討を続けた。
 その結果、2年生全員が1年間をかけて必修で取り組む「課題実践」がスタートした。


与えられた課題に取り組み忍耐力と自主性を養成

 課題については、要望・依頼が1年間取り組むのにふさわしいかどうかをFD委員会で検討し、絞り込む。各課題は、25人ほどで編成されたクラスに一つずつ振り分けられる。課題や予算をどのように振り分けるかについては、クラス担当の教員による調整会議で決まる。
 「例えばパソコンに強い先生にはホームページ制作の課題のクラスを担当してもらうなど、教員の得意分野には配慮しています」(池内教授)
 学生は各クラスにランダムに振り分けられるため、自由に課題を選ぶことはできない。しかし、あえてそうしているのだという。辛くても途中で投げ出すことが許されない必修の授業として、与えられた課題に取り組むことで、学生の忍耐力と自主性が養われると考えるからだ。
 1年間の学習の流れは(図表)のようになる。
(図表)
(図表)「課題実践」の学習の流れ
成績評価は、教員による評価として、チーム活動30%、個人活動40%に加え、依頼者からの評価30%という配分となる。
 この演習の最大の特色は、社会や大学という組織が実際に直面している問題に取り組むことだ。何が問題になっているかを困っている人からヒアリングしたり、サービスを利用する人のニーズを調べ、解決策を考え、実行に移す。これは実社会で求められるスキルと一致する。


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