ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
PAGE 21/25 前ページ次ページ


教員の熱意を示すコンテンツが学生の出席率を向上させる

 システムの開発は学内で行った。クラス・ウェブが稼働したのが00年12月。学内サーバでの試験運用を経て、01年から自宅など外からもアクセスできる本格運用に移行した。今年4月にはポータルページの運用も始まった。
 その便利さ、使い勝手の良さについて安藏教授は「ある意味、大学まで来る必要がないといえるかも」と笑う。実際、当初は「便利すぎるシステムを作ると学生が大学に来なくなるのでは」という懸念の声も上がった。しかし実際には、運用が本格化するに従い授業への出席率は向上したという。
 同教授は「教員が自分でコンテンツを作るので、一生懸命な姿勢が伝われば学生もそれに応えたいと思うのだろう。授業に関する情報が豊富なので、学習意欲も高まるのでは」と説明。共に情報教育や環境の整備に関わり今回の申請も担当した学長室専門員の中村孔一教授は、「本学のような大規模大学では、学生一人ひとりに目を配ることは難しい。学生はこのシステムによって、教員や仲間と ”つながっている”という安心感を得られるのでは」と分析する。
 システムの設計思想も、運用の成功に結びついているといえそうだ。「大学でのIT教育というと一般的には遠隔教育を思い浮かべますが、本学のシステムはそうではなく、あくまで対面授業を支援するためのツール。現在のシステムに遠隔教育を組み込むことも技術的には可能ですが、対面での授業を教育の基本に据え、システムはそのサポートツールとして使うという発想です」と中村教授。
 ポータルページがスタートした今年4月から3カ月間のアクセス数45万件は、学生数の割にはあまり多くない。専任と非常勤合わせ2000人を超す教員のうち、システムを利用しているのは400人にとどまっていることも一因だ。大学側は、教員に利用を促すなど積極的な対応を進めているが、基本的には「本当の教育とは、教員が授業を通して学生の心を震わせること。こうしたシステムを使わなくてもそれができるなら、必ずしも使う必要はないわけですから」(安藏教授)という姿勢だ。
 一方で中村教授は、「自らの教育哲学で使わない教員は別として、心理的、スキル的なバリアがあって使えない、使わない教員もいる。そのバリアを低くするための支援は考えていく必要がある」と指摘する。


専門職大学院など利用は拡大する方向に

 そうした教員支援の動きは始まっている。現在、教員以外は教材などの教育コンテンツを編集できない仕組みになっているが、来年度からは、教員が認証したティーチングアシスタント(TA)にもアクセス権を与える予定だ。パソコンを扱えない教員でも、TAに指示して思い通りの教材や資料集を作り、クラス・ウェブを活用できるようになる。大学ではこのほか、教員向けの講習会を開催するなど、「利用したい教員」の支援に積極的に取り組む考えだ。
 理工学部は、JABEE(日本技術者教育認定機構)への申請を機に、04年度からはクラス・ウェブの全面利用を計画。同学部だけで2500コマの授業があるため、大きなインパクトがある。
 04年度には法科大学院、公共政策大学院、ビジネススクールを設置し、さらに05年度には会計大学院の設置計画も。これら専門職大学院でも、システムの利用に前向きだという。
 課題もある。一つは、アクセスの増加に伴いサーバーの負担が大きくなることだ。そこで容量や回線を増強し、増大するニーズへの対応を検討。現在、授業を音声ファイルとして復習用に提供している教員もいるが、今後はストリーミング映像の利用も想定される。著作権も頭の痛い問題だ。教材としてWebに載せる著作物については教員が個別に許諾を得ているのが現状だが、今後は組織的な対応も検討する必要があるだろう。
 「情報教育のために学生にパソコンを配布する予算があるなら、ネットワークとシステム、コンテンツの整備に回す方がよほど有効だと思います。便利で使わざるを得ない状況を作れば、学生は自分でパソコンを買って主体的に使うようになります」と安藏教授。その言葉に、「Oh-o! Meijiシステム」への自信のほどがうかがえる。


PAGE 21/25 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse