ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
PAGE 23/25 前ページ次ページ


学内のごみ問題から国際貢献まで

  99年度から今年度までに制度を活用した研究テーマは計154件で、参加学生の延べ人数439人は全体の3割弱にあたる(図表)。「1、2年次のタイトな時間割の中でも、真剣に生き生きと取り組んでいます」と担当者。
(図表)
(図表)学生自主研究制度の実績

 これまでの研究テーマの一覧を見ると、「レーシングカートの研究」のように、趣味の延長のようなテーマも排除されないことがわかる。「本荘市活性化計画」「八郎潟残存湖における生物を用いた環境修復に関する研究」など、地域の問題に積極的に取り組む例も目立つ。「秋田県清酒産業の現状と課題に関する調査研究」は、全国でも数少ない醸造学の専門家がいる同大学ならでは。「現代の`花咲か娘a―開花を遺伝子で制御する」「小さくてもスゴイんです―クラブアップルの食品機能性」など、科学的探究心を遊び心のあるタイトルで表現したものも。
 国際貢献につながった研究もある。00年度には、「自然エネルギーを動力源にした自家発電装置でネパールの山村の発展に貢献したい」と考えたグループが、自主研究で水力発電装置を設計。これをもとに企業が装置を製作し、学生らが現地に設置するプロジェクトに発展した。活動の一部は、自主研究制度の中で代々後輩に受け継がれている。報告書からは「1週間の高山病対策トレーニング」「現地入手の蛍光灯の品質がよくなく予定量の半分以下しか点灯できない」「改善工事実施で計画通りの本数を点灯!!」など、苦労と感動の道のりが浮かび上がる。
 「県立大学のリサイクルシステム構築のための基礎的研究」では、キャンパスのごみ処理の実態と学生の意識調査を実施。これをもとに大学に対して、種別ごとの排出量に応じてごみ箱の大きさを変えることなど、分別の徹底を提案。大学がそれを採用し、地元紙で取り上げられた。

ネパールの山村・ピサン村で太陽電池パネルを組み立てる学生たち
ネパールの山村・ピサン村で太陽電池パネルを組み立てる学生たち

建学理念の実践のため制度が誕生

  学生自主研究制度は、開学当初の議論の中で提案された。そこでは、「時代の変化に対応できる問題発見能力と解決能力を備えた人材の育成」「学生の学習意欲と学習効率を向上させるため、対話と実践を重視した教育」という教育方針が確認された。鈴木学長が、「これを掛け声だけに終わらせず、実践するための教育システムを導入したい」と提案、制度が検討された。
 農学博士で東京大学副学長も務めた同学長は、理系学生のモチベーション維持の難しさをよく知っている。文系の学生に比べて興味の対象が明確で目的意識を持って入学してくるにもかかわらず、1、2年次には教養的な科目に追われ、専門分野に触れる機会は極めて少ない。次第に失望を深めやる気を失うという実情は、理系学部を持つ多くの大学が直面する問題といえる。
 そこで同学長は、興味あるテーマに自由に取り組み「科学者として背伸びをする」機会を提供しようと考えた。座学でない実践的な教育として研究制度を検討、意欲が育ち、3年次以降の専門研究で必要な思考や研究手法が身につく、というメリットも想定された。
 こうした理念や目的を具体化するには自由度を保証することが重要だと考え、任意の課外研究とし、特別な成果も求めないことに。実際に中断した学生はいないが、途中で研究をやめることも認めるという緩やかさだ。
 対象学年など様々な意見が出たが、「まずは試行的に」ということでスタート。当初は事務局が執行する予算形態だったため、必要な物品は、学生や指導教員の依頼を受けて事務局が購入して渡すシステムだった。02年度から現在の方式に改めるなど、見直しを加えてきた。
 事務局では「5年目を迎えて制度として安定し、学生の間でも定着してきた」と話す。「この制度があるから志望した」と話す受験生もいるとか。教員の間でも「専門教育につなげる上で自分たちにとっても必要な制度」と評価されている。それだけに、学生の参加を促しつつ、指導教員の負担軽減を考える必要性にも迫られている。前者については、入学時のガイダンスで、教員に加え自主研究を経験した3、4年生にも説明してもらうことを検討。後者の課題では、大学院生にティーチングアシスタント(TA)として指導に関わってもらう案が出ている。
 学生自主研究制度は、知識や技術の修得よりもやる気や知的好奇心を引き出すことを目的にしている。そのため教育効果の測定は必ずしも容易ではないが、大学では、今後はその評価にも取り組み、成熟した教育手法にしていくことを考えている。「一人でも多くの学生がこの制度を活用して、自ら問題を発見し、解決する能力を身につけ、社会に大きく羽ばたいてほしい」と事務局。そして、21世紀を創造する科学技術の芽を育て、若者の知的探求心を存分に発揮できる制度として、広く社会にPRしていきたいと考えている。



PAGE 23/25 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse