ベネッセ教育総合研究所
特集 大学広報の今、これから
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1to1マーケティングの積み重ねが重要

 最近の学生募集広報ツールを見ると、今までにない工夫や新しい視点が多く見られる。環境や受験生の意識の変化に対応したもので、大学案内以外の印刷物が増えているのが近年の潮流といえる。これは大学案内を補完する役割で、低学年向け、女子向け、保護者向け、エリア限定と訴求対象を絞り、それぞれの訴求対象に合わせて内容も工夫している。例えば低学年向けでは、大学の宣伝色を極力抑え教材としても利用できる内容や、在学生や卒業生の姿や声を数多く載せ、「人」から学問や大学へ結びつけるものが目立つ。
 また、直接接触できる受験生は出願に結びつきやすいため、キャンパス見学会等のイベントの開催も増え、その告知や動員のための広報ツールも増えている。イベントも低学年を意識し、単なる大学紹介ではなく「学びの内容」を前面に出し、高校生の興味・関心を喚起する企画が増えている。例えば、東洋大学の「学びライブ」、専修大学の「体験授業フェア」などがある。
 また、Webサイトを使った会員システムによる囲い込みや、作文コンテストなどで、受験生の「ファン化」を図るといった接触促進も目立つ。
 さらに、最近顕著に変わったのは入試広報部署の設置場所だ。高校生や保護者が入りやすくするため、建物の入り口近くにスペースを設け、オープンで明るい雰囲気に様変わりしている。常時、学生スタッフが待機するケースや土日も対応できるように職員が交代で出勤するケースもあり、急な見学者の対応にも配慮している。
 このような広報ツールやイベント、入試広報部署の設置場所の変化は、1to1マーケティング(一人ひとりとの接触)を視野に入れたものだ。この積み重ねが出願→入学に結びつくのである。また、生徒だけでなく、高校教員も1to1マーケティングの対象となる。公立高校ではいずれは人事異動で他校へ転勤となるため、現在は関係の薄い高校の教員でも、良好な人間関係は確実に作っておく必要があるだろう。

アメリカのノウハウがダイレクトマーケティングの参考に

 03年10月に、ロサンゼルス州ロングビーチで開催されたNACAC(National Association for College Admission Counsering) National Conferenceに参加した。
 NACACは、高校から高等教育機関に進学する生徒を支援する国際的な非営利団体である。全米をはじめ世界54カ国の高校の進学カウンセラー(進路指導担当)、大学のアドミッションカウンセラー(入学担当)など約8000人の高等教育機関関係者で構成されている。その全国大会である National Conferenceは、大学職員の研修の機会ともなっており、大学進学に関する最新の課題について、多くの講演やミーティングが実施された。学生募集に関するプログラムも用意されていた。
 参加して実感したのは、大学のアドミッションカウンセラーが、生徒の進学に携わることについて、熱意と誇りをもって業務に取り組んでいることだ。受験生やその家族が正しい進路選択をするためには、最新の情報とコミュニケーションが必要だと認識し、ダイレクトマーケティングを行い、積極的に進路支援のプログラムや広報ツールを開発している。それは結果的に大学が入学してほしい学生を見つけ出すことにつながるという。
 アメリカでは、カレッジボードからセグメントされたリストが購入できる。カレッジボードはアメリカの大学受験のための試験であるSATの運営などを行う非営利団体だ。受験した高校生の詳細なデータを保有しており、生徒自身が許諾しているものはリストとして大学が購入できる。このリスト上の受験生たちを、どのようにして入学登録まで導くかが重要で、DM、eメールによる継続的な情報発信とともに、オープンキャンパス等への参加を促進し、直接の接触につなげている。日本とはリスト入手に至る環境が異なるが、ダイレクトマーケティング先進国であるアメリカのノウハウは、DMの内容や接触のタイミングなどの面で大いに参考になるだろう。


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