ベネッセ教育総合研究所
特集 大学広報の今、これから
千葉  吉裕
全国高等学校進路指導協議会事務局
東京都立晴海総合高校教諭
キャリアカウンセラー
千葉 吉裕
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COLUMN
大学案内を読み比べることで資料の読み方の視点を鍛える
晴海総合高校は東京都初の総合学科の高校で、卒業後の進路は大学を中心に進学が7割を占める。千葉吉裕教諭は担任や教科担当を持たない、進路指導専任の教員だ。先進的な取り組みを行う同校では大学の広報ツールをどう捉えているのか聞いた。

 高校が大学情報を入手する手段は、大学案内、Webサイト、オープンキャンパス、学校説明会が中心となる。
 「インターネットは情報をすぐに入手できるため、生徒個々の調べ学習に使います。ただし授業では、紙媒体のほうが使いやすい。Webサイトは更新されるので情報の蓄積には不向きだからです。そのため進路に関する授業では大学案内が欠かせません」
 大学案内は大学側から発送されるケースのほかに、大学職員が直接訪問して配布することもある。これらは進路指導室に並べられるが、担当教員が多忙な場合、しばらくは山積みということもある。
 千葉教諭は、アプローチのない大学の資料は生徒の志望校となる進学先に限り、入試説明会に参加したり、卒業生を通すなどして入手する。大量に届けられた資料は開封して整理する際に読み、指導に活用するものをチェックしておく。「改革に熱心な大学の資料には自然に目が留まります」。
 就職率や志願倍率などを前年度分のみ掲載している大学案内は、過年度分も保存する。
 インターネットは、生徒個々の活用が主体となる。「Webサイトは基本的に大学案内と同じ内容という認識なので、教材としてあまり活用しません」。
 積極的に勧めているのは、大学への訪問だ。調べたことを確認し、大学の雰囲気や教育環境を肌で感じる機会となる。生徒の意識も高く、3年生はオープンキャンパスの日程などを聞いてくるという。
 「大学の雰囲気など、大学案内で想像していたのとは違ったということはよくあります。ミスマッチを防ぐため、調べ学習を大学訪問につなげる指導をしています」

資料では隠されている情報を見抜く

 ところが、生徒は大学の情報に触れる機会が多すぎて、自ら積極的に情報を求めない傾向にあるという。「情報は欲しい時にいつでも手に入るという意識があるようです。そこで本校では低学年の段階で情報を見る目を養うグループワークを行っています」。
 これは2人1組で大学案内を見て、ワークシート図表の全79項目をチェックするというもの。

図表

図表 「学校案内による学校研究」ワークシート
 その後、別の大学案内を調べた組と結果を比較し、どちらの大学案内がよいかを判断させる。さらに大学案内だけではわからない内容を探し、話し合う。例えば設備の大きさや数、利用時間などが書かれておらず、実際には利用に制約があったり、いつも満員で使えない可能性があるということなどだ。
 「写真や登場する学生など、大学案内には大学をよく見せるための工夫がされています。生徒は進路をこれらの情報から選ぶわけですから、大学のマイナス面を見抜く力を身に付けさせたい」
 教材にする大学案内は千葉教諭が選ぶ。生徒は志望校以外の大学案内をほとんど見ないので、良いものを見ることで視点が鍛えられるという。これはWebサイトの見方にも応用できる。
 また同校は、保護者会や進路だよりで、大学案内の見方を生徒と同じように保護者にも説明する。
 今後、大学の広報ツールに期待するのは、高校生向けのシラバスだ。高校でもシラバスは積極的に作成されており、生徒にも身近なものだ。「大学に入学したあと、不要になったシラバスを後輩のために持ってくる卒業生もいます」。
 教員の研究内容の学外での評価も知りたい情報だという。「高い評価を受けている研究や先進的な研究は、それが高校生にもわかるように発信してもらえれば大学選びの指針となります」。
 大学選びで最も重要なのは、やはり学びの内容だ。情報が氾濫しているからこそ、基本となる情報の充実が求められるのだろう。


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