ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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6. 人材の流動性と専門性
アメリカでは専門性と所得が連動


 日本の終身雇用制を前提とすると、職業における人材の流動性が低いので、専門職大学院が定着する基盤が小さいとの意見がある。確かにアメリカと比較すると、流動性が低く、従って職業的な専門性に対する評価方法も確立されておらず、それがまた流動性を低くする原因ともなり、「卵が先か鶏が先か」という議論が展開されることが多い。
 アメリカでは図表のように、学士号取得者と修士号取得者の所得が明確に違い、修士号取得者の主な専門分野はビジネス、教育(現職教員の昇任条件としての再教育が多い)、公衆衛生(看護師など)である。社会的な専門性の認知と所得が連動しているアメリカと比較すると、日本での専門職大学院の可能性は、地位と所得の面でまだ低いと言える。

図表

図表 アメリカにおける最終学歴別の年収中間値 (2000年、収入を得ている25歳以上を対象に調査)
 しかし、3. 専門家を必要とする団体、機関等との連携で示したように、大学院プログラムとしては未発達なものの、職業上の専門性が要求される分野は急速に拡大している。04年度開設予定の専門職大学院で、「隙間」ではあるが、専門性の要求される職業と密接に関連している分野が多く見受けられる。特に注目されるのは、専修学校を経営する法人が設置する大学院大学になるであろう。専門職業と密接に関連した教育プログラムの開発に関しては、従来型の大学とは比較にならないくらいに社会ニーズをとらえるスピードが速いからだ。これに、一定の学問的方法と教員確保のノウハウが加われば、多くの専門職大学院が開設され、それによって、専門的職業の地位が確立される可能性も見えてきている。

新たなアウトソーシングの可能性

 専門性の確保と、それによる待遇(地位や給与)がリンクし始めると、企業などですでに急速に展開されているような専門的委託業務に関して、専門職大学院卒業生や卒業生を雇う専門的業務受託会社が、アウトソーシングの受け皿として機能することも予想される。今日のアウトソーシングは、業務コスト削減のリストラ型よりも、むしろ専門的スキルの委託に多く展開されているからだ。待遇の変化が大きくなると、当然のことながら人材の移動も大きくなる。その際には「専門性の証明」としての専門職大学院の学位が大きな意味を持ってくる。そして、専門性と待遇によって、授業料とその負担者もまた変化することになるであろう。
 我が国では、産業構造の変化に伴って、職業のあり方も、会社をもとにした形態から職種をもとにした形態へと変化しつつある。これと連動して専門知識・スキルに対する需要が拡大しており、様々な形態の専門職大学院が実現する可能性が開けているといえる。


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