高等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第105回 「一生学び続ける」を科学する④
大学生の「主体性」をエンカレッジする(後編)

2016年07月19日 掲載
研究員 松本 留奈

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主体的な学び カリキュラム改革 多様的な能力・資質 アクティブ・ラーニング 高大接続改革 大学改革 大学教育

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 前編では、社会を支える人材要件としてもニーズが高く、卒業後の社会生活を営むうえでの自己効力感とも関連が認められた「主体性」であるが、約7割の学生が受け身の状態で入学してくる現実にあって、学生の主体性の育成を目指さなくてはならないのが、大学教育の課題であることを確認した。また、学生が主体性を獲得し成長を実感するには、知る・分かるといった技能スキル向上から一歩踏み込んで、自らの行動を変えたり、他者への影響力や既存の枠を超えた発想力が身についたと実感できるような教育経験が重要なのではないかとの仮説を持った。すると、そこまで深い経験をさせることは、1つの授業という単位では難しく、複数の授業、ゼミ、研究室活動、または正課外での活動も含めた、学生のあらゆる学習・生活での営みを想定する必要があるのではないか、との問いに至った。

 そこで本稿(後編)では、主体性を獲得し成長を実感するために、どのような学びや環境が望ましいのかについて、学生の状態に配慮しながら具体的な方策を明らかにしていきたい。

入学時は受け身タイプでありながら、大学で成長した学生に注目

 前編の(図1)で明らかにした通り、入学時より主体的に行動できるタイプの学生ほど、大学生活の中で学びの機会を捉え、成長を実感していく傾向がある。約7割の学生が受け身の状態で入学してくる現実の中で、大学側が考えなくてはならないことは、この受け身の学生達にどのようにして主体性を獲得させ、成長に導いていくのかという点だ。

 そこで、ベネッセ教育総合研究所で2015年3月に実施した「大学での学びと成長に関するふりかえり調査」(以降、ふりかえり調査)を用いて、(1)入学時の行動タイプ(主体性)と(2)大学時代全体を通しての成長実感の2つの回答状況に着目する。
 23-34歳の回答者を対象に、「(1)入学時から主体性があり、(2)大学時代を通してとても成長を実感できた」との回答者をAタイプ(1,222サンプル)、「(1)入学時は受け身だったが、(2)大学時代を通してとても成長を実感できた」との回答者をBタイプ(875サンプル)、「(1)入学時は主体性があったが、(2)大学時代を通して成長を実感できなかった」との回答者をCタイプ(327サンプル)、「(1)入学時は受け身で、(2)大学時代を通して成長を実感できなかった」との回答者をDタイプ(945サンプル)とする(図3)。

 (1)について「与えられても、よほど興味がなければやらないほうだった」、「あてはまらない、わからない」との回答は今回の分析対象からは除く。理由は、よほど興味がなければ反応しない学生にどう対応するかより、「与えられればやる」受け身の学生をどう成長させるかが、課題として取り組むべき優先順位が高いと考えたためである。また、(2)についても、成長を「まあ実感した」との回答は今回の分析対象からは除く。理由は、成長を「まあ実感した」との回答が分布が広く、タイプ別の差異に着目する分析の性質を考慮したためである。


図3 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ

図3 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ

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 前編の(図1)の結果からみえる傾向を考えると、Aタイプ、Dタイプは予測通りといえるが、Bタイプ、Cタイプは逆転現象を起こしている。特に、Bタイプの背景要因を探ることは、受け身の状態で入学してくる多くの学生に、学びを通して主体性を育み、成長に導いていかねばならない大学教育の課題へのヒントになるだろう。主体性を持って入学したにもかかわらず、成長できずに大学生活を終えたCタイプとの差異に着目しながら、主にBタイプについて確認していく。

学ぶ意欲、豊かな人間関係、多くの活動への参加が、成長へのキー

 まず、A~Dのタイプ別に入学理由をみてみよう(図4)。

図4 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別 入学理由

図4 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別入学理由

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 本設問は、複数回答である。A、Bタイプは、C、Dタイプと比較して、ほとんどの項目において選択された比率が高く、多くの観点から大学を吟味し入学してきたといえよう。また、BタイプとCタイプを比較して特に差が大きいものをみると、「資格や免許取得」、「興味ある学問分野」、「将来就きたい職業」といった学びの内容を重視した、内発的動機が並ぶ。一方で、あまり差がつかなかった項目をみると、「親元を離れられる」、「仲の良い友人も進学する」、「偏差値」といった外発的動機が並ぶ。Bタイプが成長できた要因に、多くの観点から大学選択を行い、学ぶ目的・意欲を持って入学してきた点が挙げられる。


 次に、入学してから夏休みごろまでの状況で、大学適応度合いをみてみよう(図5)。

図5 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別 大学適応

図5 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別 大学適応

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 まず注目したいのは、学習・生活の不安について、BタイプとCタイプにさほど大きな差はない点だ。Bタイプは、Aタイプのように入学当初から不安が少ないというわけでなく、それなりに心配や戸惑いを抱えていた様子が伺える。しかし、Bタイプは、Cタイプと比較すると、気軽に話したり助けを求められる人間関係(友人、先輩、教職員)に恵まれていること、高い学習意欲を持っていたこと、課外活動に楽しんで参加していたことが明らかとなった。これらの要因が入学当初の不安を和らげ、大学生活を軌道に乗せる助けとなり、「期待した通りの大学生活」を送ることができ、「大学に居場所がない」と感じることが少なかったと推察される。

 この結果から、Bタイプが成長できた要因に、気軽に話したり助けを求められる人間関係(友人、先輩、教職員)、高い学習意欲、課外活動への参加が挙げられる。また、ここで図は省略するが、教職員のサポートをより詳細にたずねた項目をみると、BタイプにはCタイプよりも、「普段から気にかけてくれる」「厳しいことを言ってくれる」といった関係性の強い教職員が多くいたこともわかった。

 もうひとつ、活動面でのデータをみておきたい(図6)。

図6 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別
  活動イベント数・特に成長を感じた経験

図6 入学時の「主体性」と大学時代の「成長実感」による分析タイプ別活動イベント数・特に成長を感じた経験

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 (1) の大学時代に経験した活動イベント数の平均値とは、正課内・外活動を含めた 学生にとってポピュラーな9つの活動(詳細は注記参照)にどれだけ参加したか平均値を算出したものになる。結果をみると、BタイプとCタイプの間に大きな差がある。このことから、学生の成長にとっては、より多くの活動に参加することが望ましいとわかる。

 (2) の特に成長を感じた経験は、それら参加した活動の中でもどのイベントで特に成 長したと感じているか1つだけ選択した結果である。Bタイプは、正課外活動(サークルや部活動、アルバイトの合計、30.4%)よりも正課内活動(授業、ゼミ、研究室活動、卒論や卒研の合計、50.5%)を挙げる比率が高く、大学の学びの中で成長を感じていることがわかる。また、Cタイプとの比較において、Bタイプは正課内活動、サークル・部活動といった学校内・周辺の活動が多い一方で、Cタイプはアルバイトという学校外の活動が多い。この結果だけで断定することはできないが、活動数が少ない中でアルバイトに傾倒することは、学生を成長実感から遠ざける可能性を示している。

 これらの結果から、Bタイプが成長できた要因に、より多くの活動に参加したこと、さらに正課内から成長を感じる経験ができたことが挙げられる。

 ここまでに出てきたBタイプの特徴をまとめると、学ぶ意欲を持ち、ピアサポート、教職員の親身な指導・助言に恵まれ、大学内に軸足を置きながら多くの活動に参加する中で自己を成長させていった姿が、浮き彫りになってきた。

まとめ

 アクティブ・ラーニングをはじめとする主体的な参加形式の授業は増加したが、学生の主体的な学びの態度につながっていないという課題を受け、前編・後編を通してここまで、学生が主体性を獲得し成長する教育経験とは何か、受け身だった学生が成長した環境要因とは何かを確認してきた。

 そこで、仮説ではあるが、知る・分かるといった技能スキル向上から一歩踏み込んで、自らの行動を変えたり、他者への影響力や既存の枠を超えた発想力が身についたと実感できるような教育経験が重要なのではないかということ、受け身の学生に対しては、「学ぶ意欲」を大切にすること 、「ピアサポート」や「教職員の親身な指導・助言」のある環境を用意すること、そして、「大学内に軸足を置きながら多くの活動に活発に参加」させていくことが有効であること、が明らかとなった。これらは、学生の主体性獲得や成長への示唆となる知見であり、ぜひ実践に活用いただきたいと考える。

 しかし、実践への活用を考えるにあたって気をつけたいのは、今回分析で出てきたキーは、学生自身あるいは周囲が意図的に行動した結果というよりは、おそらく偶発的な出会いや事象が作用したケースも少なくないのではないかという点だ。今後はこれらを、より多くの学生に必然的に体験させるような仕掛けが重要であると考えるが、前編でも述べたように、このやや複雑な事象を意図的に作用させるには、大学一つひとつ、学生一人ひとりを丁寧に確認し、それぞれに合った方策を案じる必要がある。

 これら問題意識を背景に、今後取り組みたい活動は大きく2つである。

1.「ふりかえり調査」を個別大学で実施し、教育改善に活用する

 個別大学で卒業生調査を実施し、今回のランダムサンプリングで実施した大規模調査でみえた知見を基にした分析を加えることで、個別大学における課題を解決したい。特に、大学教育改革の目指すべき方向である学生の主体性の涵養に対して、学習・生活の両面からのフォローを、現場の方々と一緒に考え、検討できればと考える。

2.大学生の学習・生活面を複眼的に捉え、主体性を引き出す術を考える

 急激な社会変化に伴い、大学生の置かれる状況も刻一刻と変化している。マクロな社会環境では、長引く景気の低迷、グローバル化、大学の機能分化、18歳の参政権、入試改革、高校までの教育の変化など、それに伴い彼らが受ける大学教育も大きく変化する中で起こる「内向き志向」、「保護者依存」などの現象を、単にそれだけのミクロな変化と片付けることはできない。その背景にある要因を確認するためには、大学生を、大学教育の中だけで見るのではなく、高等教育以前の教育段階からのつながり、学生個人の教科内外での経験、あるいはその後の社会とのつながり、その他社会情勢や親子関係の変化、などより複眼的視点で確認し学生の姿を正確に捉える必要がある。その結果を、学生一人ひとりの主体性を引き出す一助につなげていきたいと考える。



 ※「大学での学びと成長に関するふりかえり調査」の調査結果は、母集団の実際の構成比(性別)に合わせてデータに重み付けして集計を行った。ウェイト作成にあたっては、調査対象者が満18歳時点での全国の大学入学者数(文部科学省発表)より性別比を算出したものを利用した。そのため、文中や図で示したサンプル数・度数を用いて計算した結果と、表示した数値が合わない場合がある。

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著者プロフィール

松本 留奈
まつもと るな

ベネッセ教育総合研究所 研究員

民間シンクタンク、(株)ベネッセコーポレーションの営業部門を経た後、ベネッセ教育総合研究所に入所し、幼児分野における各種調査の設計・分析を担当。近年は高等教育領域を中心とした調査研究に従事している。学生の主体的な学修ならびに生涯学習支援の在り方に関心を持っている。

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