調査室長コラム Ⅰ
第９回 新しいメディアをどう教えるか
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/01/21更新）
大人は、新しいメディアに対する順応が遅い。パソコンでも携帯電話でも、新しいメディアを購入するとマニュアルを引っ張り出し、その使い方を覚える努力をしないと、なかなか使いこなせない。マニュアルを読むのが面倒だと、そのメディアが有している機能の、ほんの何割かしか使わない状態になる。
これに対して、子どもは、新しいものに対する順応が早い。たとえば、購入したばかりのゲーム機でも、マニュアルを読まずに試行錯誤するだけで、数日のうちにほとんどの機能を使いこなしている。その能力の高さに、舌を巻く。大人には到底、真似できない。
このように、子どもは新しいメディアを好んで使うものだが、それに没頭している姿を見ると、たいていの大人は否定的な感情を持つ。テレビが家庭に普及した当時も、子ども向けの番組に対する批判が強かった。テレビゲームも、心理面の影響などを心配する声が強い。パソコンや携帯電話も、さまざまな角度から危険性が指摘される。
しかし、実態は大人の意向にかかわらず進む。現在では、家庭でパソコンを使う子どもも、携帯電話を持っている子どもも多い。図は、携帯電話の所持率を示している。小学校高学年で２割、中学生で５割、高校生では９割以上という結果である。所持率は地域によって異なり、都市部ではもっと高い。
こうした状況に、大人はどう対応すればよいのだろうか。テレビやテレビゲームの普及のときは、ほとんど成り行き任せという感じであった。きちんと教育してこなかったことの問題は、さまざまな形で出現しているかもしれないが、それで社会のあり方が決定的に変わったということはないように思う。新しいメディアのほとんどは、普及し、受け入れられると、批判的な声が急速に弱まる。
では、パソコンや携帯電話も、同様に成り行き任せでよいのだろうか。その機能を考えると、体系的な教育の必要性を強く感じる。
第一に、それらは、これまでのメディアと異なり、発信が可能なツールである点だ。コミュニケーションが成立するので、使用に際して一定のルールが必要になる。それがきちんと認識されていなければ、自分や相手が傷つく危険もある。第二に、その機能は学習にも転用できる点だ。情報収集に際して、インターネットの利便性は高い。ただし、情報は玉石混交であるため、得られる情報の信頼性を判断する必要がある。こうした判断力の育成も、教育の範疇である。使用が拡大する中学生の以前に、体系だった教育プログラムが必要ではないかと感じる。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2006年７月号（学事出版）
