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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
日本の家庭教育で何がおきているのか? 〜その変化と課題を追う〜

[ 3 ]

「他人を見下す若者」の増加と、家庭教育でできること −子どもの自尊感情を高める働きかけが求められている−

速水敏彦 名古屋大学大学院教育学研究科教授

 些細なことでキレたり、自分が間違っているのに非を認められない若者が増えているように思われる。彼らは自己中心的で、他人を見下した言動をするのが特徴だ。このような若者が生まれるメカニズムやそうした若者の他者との関係を研究し、「仮想的有能感」という新しい概念を提起している速水先生に、現代の若者たちが抱える問題や家庭教育で必要とされていることなどをうかがった。

若者の新しい傾向を解くカギ−仮想的有能感とは何か−
速水敏彦先生
速水敏彦先生
1947年生まれ。名古屋大学大学院教育学研究科教授(教育学博士)。専門は教育心理学。大阪教育大学助教授、名古屋大学教育学部付属中・高等学校校長などを経て現職。著書に『自己形成の心理-自律的動機づけ-』(金子書房)、『他人を見下す若者たち』(講談社現代新書)、『動機づけの発達心理学』(共著、有斐閣)など。

 他者の能力を低く見ることで自己評価を吊り上げ、一時的で無意識的な自尊感情を高める習慣的な感覚を、私は「仮想的有能感」と名づけました。「仮想的」としたのは、自分の過去の実績や経験に基づいて生じる従来の有能感と区別するためです。仮想的有能感は自分の過去経験には左右されず、思い込みの自己評価であり「本物」の有能感ではない、そういう意味で「仮想的」なのです。

 自分の失敗を認めず人のせいにする、世間の連中はつまらない奴らだという感覚を持つ、…よく知らない他者の能力や実力を否定する行動傾向が、近年、若者を中心に目立つようになりました。仮想的有能感は、これらの行動傾向を理解するためのひとつの心理的構成概念と考えています。

 仮想的有能感を高く有している人たちの多くに共通しているのは、横柄で人を見下したような態度や言動を示すことです。それは「将来を見通す能力」のように、自分が経験したことのない漠然とした領域や、自分への評価が定まっていない部分で顕著となる傾向があります。逆に「数学の能力」のように、自分がどれだけできるか/できないかがはっきりしている場面では出にくいようです。能力や実力をよく知っている親しい他者に対しても、仮想的有能感は機能しにくいと考えられます。


中学生や高校生で高くみられる仮想的有能感、しかし大人でも…

 私が関わっている研究グループでは、仮想的有能感を測定する尺度を作って調査をしています。その調査では、仮想的有能感が高くなるのは10代、つまり中学生〜高校生という結果でした。この年代の子どもは、よく知らない他者の失敗などに対して「あんなこともできないなんてつまらないやつだ」と容易に他者を軽視しがちです。また端から見たら何の根拠もないのに、難易度の高い進学先を受験しようと考えたりします。


*仮想的有能感を測定する尺度

仮想的有能感は無意識に起きる感覚なので、直接的に問うことはできない。そこで実際の調査では、仮想的有能感がもっとも顕著に反映される「赤の他人をどう評価しているか」という他者軽視の傾向を測定する尺度(表−1)を作り推測している。各項目を5段階で評価する。総合得点が高いほど仮想的有能感を高く有していると解釈できる。

  1. 自分の周りには気のきかない人が多い
  2. 他の人の仕事を見ていると、手際が悪いと感じる
  3. 話し合いの場で、無意味な発言をする人が多い
  4. 知識や教養がないのに偉そうにしている人が多い
  5. 他の人に対して、なぜこんな簡単なことがわからないのだろうと感じる
  6. 自分の代わりに大切な役目をまかせられるような有能な人は、私の周りに少ない
  7. 他の人を見ていて「ダメな人だ」と思うことが多い
  8. 私の意見が聞き入れてもらえなかった時、相手の理解力が足りないと感じる
  9. 今の日本を動かしている人の多くは、たいした人間ではない
  10. 世の中には、努力しなくても偉くなる人が少なくない
  11. 世の中には常識のない人が多すぎる
1点:全く思わない  2点:あまり思わない  3点:どちらともいえない  4点:ときどき思う  5点:よく思う

 以前、小学校の先生たちと話したとき、小学校高学年でも同じような傾向が見られるとのことでした。先生に注意されても「私はこのままでいい」と受け入れなかったり、個別指導の時間にちょっと遅れただけで「無視かよ」と先生を見下す言い方をしたりする児童が、高学年になると増えるそうです。

 仮想的有能感は、他者を軽視する傾向がみられるのですが、裏返せばこれは自尊感情が低いこと、つまり自分に自信がないことを現しています。自尊感情の低い人は、自信のなさを補う形で人を見下し、自分の体面を保つようになります。こうしたことを繰り返しながら仮想的有能感が強化されていくのです。

 自尊感情には、その人がどのような人生経験を積み、どのような人間関係を培ってきたかが関係しています。しかし、現在の子どもたちの多くは、そうした経験や人間関係が不足している可能性があります。核家族化やIT化が進み、他者と親密な人間関係を形成する機会は以前と比べて格段に減り、希薄化しています。このような環境では他者軽視をしがちです。

 ところで、中年期以降になると仮想的有能感が再び高くなるという結果も出ました。つまり仮想的有能感は若者だけでなく、大人でも有する感覚なのです。どんなに経験や実績を積んで自尊感情が高くなっても、赤の他人を自分より下と見なしたり、小さな違いを比較して「私のほうが有能だ」と安心したりすることは、多かれ少なかれ、誰もがやっています。人間関係が希薄化しているのは、何も子どもだけの話ではない。そう考えると、若者だけの問題ではなく、現代の日本人の多くが関係している問題といえるでしょう。


 
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