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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
日本の家庭教育で何がおきているのか? 〜その変化と課題を追う〜

[ 3 ]

「他人を見下す若者」の増加と、家庭教育でできること −子どもの自尊感情を高める働きかけが求められている−

速水敏彦 名古屋大学大学院教育学研究科教授

有能感の4つのタイプ

 これまでの調査結果で、仮想的有能感(他者軽視に基づくもの)と自尊感情は無相関に近いことがわかっています。そこで他者軽視と自尊感情の高低の組み合わせで、4つのタイプの有能感が考えられます。タイプごとに[仮想型][全能型][自尊型][萎縮型]としましたが、特に問題としたいのは[仮想型]と[萎縮型]です。いずれも自尊感情が低いことが共通しています。

図:有能感の4タイプ

図2

[仮想型]
現実には有能とは認められないにもかかわらず、失敗の原因などを自分以外の要因に帰しやすい。また他者の失敗に敏感で、その機会を捉えては相手を批判することで、自分の有能さを回復させたり誇示したりする。
[全能型]
自分に満足しており優越感を抱いているが、他者への不満も抱いている。中年期以降に顕著。
[自尊型]
他者軽視ならぬ他者尊重のタイプで、仮想的有能感を抱かない。他者に不満はなく、自分にも満足している。
[萎縮型]
両次元の有能感がともに低いタイプ。他者への不満はないが、自分に対して不満で自信がない。人に迷惑をかけたりはしないが、失敗などはすべて自分のせいにして劣等感が強い。

 学習場面に関して言えば仮想的有能感(他者軽視)が高くて自尊感情の低い[仮想型]の子どもは、自慢と批判が多く、人に聞かれても教えなければ他人に尋ねたりもしない。どちらも低い[萎縮型]の子どもは、何かあるとすぐ落ち込み、抑鬱状態や無気力になりがちです。どちらも人間関係がうまくいかなくなる可能性が高いと考えられます。

 先ほどからお話しているのは[仮想型]にあたりますが、こういう傾向にある子どもは、結局は自分も他人も軽く考えているわけですから、そうじゃないよ、と考える機会を与え、根本にある低い自尊感情や他者軽視の傾向を改善していくことが必要となります。

“ナンバーワン”“オンリーワン”の落とし穴

 それでは家庭や学校で具体的にどのようなことができるかですが、残念ながら特効薬はありません。たくさんの経験を積み、実績を重ね、豊かな人間関係を形成していくことで自尊感情が高まるとわかっても、実際にはそう簡単にできるものではないでしょう。

 社会に出て本当に成功できる人はほんのひと握りです。学業でもスポーツでも、ナンバーワンになれるのはわずかです。それなのに、格差社会、競争社会を勝ち抜くことが、子どもたちには求められています。私は、小学校から能力別学級編成が徹底しているシンガポールでも、他者軽視と自尊感情の調査をしていますが、成績の低いクラスほど他者軽視をする傾向が高く、仮想的有能感を持ちやすいという結果が出ました。日本の子どもたちはシンガポールほど競争社会に晒されているわけではないかもしれませんが、それでも競争によるストレスを無意識に抱えていると考えられます。そのため日本の子どもたちも早くから仮想的有能感を機能させる機会が増えているといえるでしょう。

 また、ナンバーワンではなく、「オンリーワンになればいい」という考えがありますが、これも本当の意味で個性的で特別な人がどれほどいるでしょうか。最近の保護者は、自分の子どもにオンリーワンになってほしいと期待しがちですが、子どもはそれを重く受けとめるはずです。しかし、オンリーワンになることも簡単ではない。そして結局は、他者の個性を自分のそれより下に見ることで、自分は特別だと考えることにつながってしまうのです。オンリーワンは、ともすると競争社会を解決するキーワードとして捉えられがちですが、実は自尊感情を高めにくいという落とし穴があることも知っておきたいものです。


自分は必要とされていると感じることが自尊感情を高め、
親密な人間関係が他者軽視を低める

 自尊感情は経験によって高められていくものです。学業やスポーツなど、子どもに何か優秀な点がある場合は、そこで経験を積むことで自然と自尊感情は高まります。しかし、大半の子どもは学業やスポーツで優秀な成績をとれるわけではありません。私は「自分が他人のために役立っている」という感覚を培っていくことを提案したいと思います。

 家事の手伝いや学校や地域の活動などを通して何かしらの役割を与え、自分が必要とされる存在であることを確認する。そして自分は大事にされているというメッセージを他者から受け取る。こういった経験を繰り返していけば自信がつき、成果や達成という場面以外でも自尊感情は高められます。競争で他者を出し抜くのではなく、自分が他者のために何かをすることで認められる−このことで、自分も他者も大切であるという感覚が身についていきます。

 また、親密な人間関係も意識的に形成していくようにしたいものです。といっても、すごく特別なことをするのではなく、親子で「普通の会話」をすることでも可能です。たとえば、自分の仕事は地味で平凡だけれど、こういうところを大事にしているとか、若いころの夢は叶わなかったけれど、今はこんなことに取り組んでいて楽しいとか、そういう親の等身大の姿を子どもと同じ目線でじっくり伝えてみる。身近な人がどのような気持ちで生きてきたかを知ることは子どもの生きていく力につながります。そして、将来像を具体的に描く基盤になるのです。以前、私は「雑談の研究」と称して、学生たちに先生のどんな雑談が印象に残っているかを聞いたことがあります。そのとき圧倒的に多かったのが「先生の失敗体験」でした。自分の夢が実現しなかった話や失敗の体験を語ることは、親としても勇気のいることだと思います。しかし、本気で話せば子どもは感動するし、心に残ると思うので、一度きちんと話してみてはどうでしょうか。

 子どもとの会話では「意思」だけでなく、「感情の疎通」も大切にしてほしいと思います。子どもが嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったことを、まずは感情のレベルで共感してあげる。このことで、自分は大切にされていると子どもは感じることができます。こうした経験は、自分が他者とかかわるときにも相手の感情、そしてその存在を大切にしようという態度につながります。

 ほかにも家族でいっしょに計画をたてたりする共同作業もいいと思います。グループ活動や話し合い活動を多くすることにした学校のクラスで、他者軽視の傾向がどのように変化するかを調べたことがあります。始める前と始めて半年後とでは、ほとんどのクラスで他者軽視が低くなりました。親密なコミュニケーションを続けることが効果があるのです。家族でのコミュニケーションを通して、子どもの自尊感情を高め、他者尊重の姿勢を育むことを考えていただけたらと思います。


(取材日:2008年9月8日)


 
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