BERD 2008 No.15
【特集】
インタビュー
profile
秋田喜代美
東京大学大学院教育学研究科教授
あきた きよみ

東京大学大学院教育学研究科教授。
専攻は発達心理学、教育心理学、教師教育。
博士(教育学)。
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
立教大学文学部助教授等を経て現職。
主な著書に『知をそだてる保育』(ひかりのくに)、『今に生きる保育者論』(共著、みらい)、『幼児期に育つ「科学する心」』(共著、小学館)、『授業研究と談話分析』(放送大学教育振興会)など。
Refarence
●Siraj-Blatchford,I and Sylva,K.(2004). “Researching pedagogy in English pre-schools”.
 British Educational Research Journal,30(5), PP.713-730
BERD
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国際的に高まる「保育の質」への関心
──長期的な縦断研究の成果を背景に──
秋田喜代美[東京大学大学院教育学研究科教授]

秋田喜代美
 アメリカやイギリスをはじめ、諸外国で子どもの発達を長期にわたり追跡調査する縦断研究の成果が発表され、「見えない教育方法」と呼ばれてきた乳幼児期の保育・教育の質に関する国際的な議論ができるようになってきた。
 何をもって保育の質とするのか、その測定や評価はどうあるべきか。
 OECD(経済協力開発機構)Starting strong networkの会議に参加してきた秋田喜代美先生に話をうかがった。
キーワード=保育の質、見えない教育方法、第三者評価
乳幼児期の保育・教育が国際的な議論の俎上に
 PISAをはじめさまざまな教育調査を実施しているOECDに特別設置委員会が二つ設けられています。一つはいじめ問題、そしてもう一つが乳幼児の保育・教育問題です。2008年で二つの特別設置委員会は期間が切り替わったのですが、乳幼児の保育・教育問題はさらに3年間継続と決まりました。それだけ重要性が高い問題と国際的に認識されているわけです。
 国際経済について協議するOECDのような機関が乳幼児の保育・教育問題に強い関心を寄せる背景には、主に三つのグローバルな動向があると考えられます。
 第一に、乳幼児期の保育・教育への公的投資が社会的・経済的に極めて有効な政策手段であることが、子どもの発達を長期にわたって追跡調査する縦断研究で実証的に示されてきたこと。
 第二に、男女共同参画社会への手だてとして母親の就労が重要であり、母親が働けるためには、子どもを預ける保育所・幼稚園の質が問われること。
 第三に、これはいうまでもありませんが、第二次世界大戦後間もなく世界的に広まった保育所・幼稚園での保育・教育が、OECD参加国では概ね定着し、各国で多様な施設が生まれており、そこで改めて乳幼児期の保育・教育の質とは何か、が問われていることです。
 もちろん、韓国や日本のような少子高齢化が問題となっている国では、「子どもたちには、より良い質の保育・教育を」といった社会的ニーズがいっそう強く、そうした国独自の課題も背景にはあります。
 また、学校教育の枠組み全体として考えれば、乳幼児期からそれ以降の就学段階へと教育目標及び教育課程が一貫してつながることが望ましいとする観点からも、義務教育段階に比べてこれまであまり検討されてこなかった乳幼児期の保育・教育に改めて注目が集まっている、といえるでしょう。
 以上は国家や社会のマクロなレベルで乳幼児の保育・教育が国際的に議論されている理由ですが、私たち研究者や実践者がなぜ取り組んでいるかといえば、もちろん子どもの日々の幸せと育ちのためにほかなりません。マクロなレベルのことではなく、目の前の子どもの今を生きる笑顔を見たい、子どもたち自身が幸せだと感じられる乳幼児期を生き、将来の幸せにつながってほしい、そんな願いがすべてに優先します。
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