特集 教員養成システムの論点

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【解説】

中教審で何が議論され、どのような方向性で検討されているか

教職大学院の設置、教員免許更新制の導入など、これからの教員養成のあり方を大きく左右する議論が、文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会で進行している。教職大学院修了者の処遇や免許更新制の適用範囲など、議論のポイントを整理した上で、教職大学院や免許更新制がどこへ向かおうとしているのかまとめた。

教職大学院

検討の背景・経緯
教員の実践力向上を目指す


 教職大学院構想は、最近では2004年8月に当時の河村建夫文部科学大臣が発表した「義務教育の改革案」等でも改革案の一つとして挙げられている。義務教育を根底から支えているのは教員であるとの認識から、その資質の飛躍的な向上のために、専門職大学院の設置、教員免許更新制の導入などを打ち出した。
 同年9月には、それ以前から有識者が検討を進めていた「これからの教育を語る懇談会」の第1次まとめが出され、この中でも同様の政策推進が支持される。これらを受けて10月、中央教育審議会への諮問がなされた。
 一連の動きの背景には、複雑化する教育の諸問題に対処するため、教員に高度の専門性が求められるようになったことや、教員の指導力不足に対する社会からの厳しい批判がある。
 従来の教員養成システムに対して「理論や講義が中心で、演習や実習が不十分」「実務家教員による指導が少ない」「教育実習では授業以外の場で児童・生徒と触れあう機会が少ない」など、学校現場のニーズとの乖離を指摘する声も後押しとなった。フィンランドのように、大学院修士課程修了を教員の基礎資格にしている国の事例も参考にされたようだ。
 諮問を受けて、中教審では専門職大学院ワーキンググループ(WG)を設置。教職大学院の目的や意義、制度設計についての議論を重ね、05年7月に審議経過報告として素案を公表した。

教職大学院制度の概要(中教審の素案)
(1)制度スタートの目標は2007年度
(2)修業年限は、従来の修士課程に合わせて標準2年とされているが、現職教員に配慮した短期履修コース(1年)、教員免許状未取得者のための長期在学コース(3年)も設定可能
(3)修了要件は45単位以上
(4)10単位以上は連携協力校等における実習を義務化(現職教員は10単位までは現職経験をもって実習とみなすことが可能)
(5)カリキュラムは、「教育課程の編成・実施」「教科等の実践的な指導方法」「生徒指導、教育相談」「学級経営・学校経営」「学校教育と教員のあり方」の5領域からなる「共通科目(基本科目)」、各大学院独自の「コース(分野)別選択科目」「学校における実習」から構成
(6)修了者には「教職修士(専門職)」等の専門職学位を授与
(7)免許状は、現行の「専修免許状」を活用する方向で検討中
(8)設置基準上、必要な専任教員は最低11人
(9)専任教員の4割以上は実務経験者
(10)共通の名称として「教職大学院」を規定

検討された課題

処遇は任命権者が判断


 教職大学院は、専門職大学院制度の枠組みの中で制度化され、既存の大学院と共存する形になる。「従来の大学院を否定するものではなく、高度専門職としての教員の養成に特化した大学院という位置付け」(文科省関係者)だ。
 教職大学院に特に期待される目的は、「スクールリーダーの養成」「新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成」とされた。ここでいうスクールリーダーは、管理職に限定せず、広い分野で指導力を発揮できる教員を意味する。目的の中の「有力な一員」という言葉は、当初は「即戦力」だったが、「表現が断定的すぎる」として変更された。
 実習については、WGでは当初から必要だとの認識で一致。ただ、最低限度の10単位でも、授業の予習や復習を入れると300〜450時間の学習量に相当するため、現職教員については、日頃からクラス運営や教材研究に追われている実情に配慮して軽減できることとされた。
 実習先については、学校現場を重視した実践的な教育を進めるため、附属学校以外からも連携協力校を設定することが義務付けられた。教育センターや民間企業など幅広い連携先の確保も盛り込まれた。
 実務家教員については、臨床的教育を重視するため、一般の専門職大学院(3割)より多い4割以上を求めた。
 修了者の処遇については、今までの大学院とは違う新しい制度を作る以上、メリットを与えるべきだとする考え方と、あくまでも人物を見た上で判断すべき問題だとする考え方とがあり、意見が分かれた。結局、制度的に優遇措置を講じることはせず、処遇は教育委員会など任命権者に委ねることとされた。

今後の方向性
教員養成GPでも支援


 今のところ、年度内には答申がまとまり、07年度から制度化される公算が大きい。
 設置認可に関しては、国公私立いずれも設置することが可能であるが、国立大学は予算の制約もあり、実践的な指導力を有する教員の養成に優れた実績を持つ大学が候補となろう。設置数は今後の認可状況によるが、WGの委員の間では、2、3大学程度では、全国的にスクールリーダーを養成するには足りないという認識で一致しているようだ。
 政策面での後押しも用意されている。05年度に導入した教員養成GPは、教職大学院とは直接関係ないが、採択プログラムを見ると、教職大学院にもつながる実践的な教育、地域との連携などに力を入れる学部や大学院の取り組みが目立つ。06年度は、小・中学校だけでなく、幼稚園や高校の教員養成にも対象を広げ、大学院段階での教員養成も重点的に支援する予定だ。
 既存の修士課程の取り組みも対象になるが、文科省関係者は「教職大学院の設置を目指す大学の新たな取り組みにも期待したい」と話し、教職大学院の制度化をきっかけに、学部や即存の大学院も含めた教員養成全体の活性化も狙う。


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