特集 教員養成システムの論点

佐藤 学
東京大学大学院
教育学研究科教授

佐藤 学


さとう・まなぶ
1951年広島県生まれ。80年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。三重大学助教授を経て88年東京大学教育学部助教授、95年同大学院教育学研究科助教授、97年教授。04年教育学研究科長兼学部長に就任。著書に「教師というアポリア─反省的実践」(世織書房)など。

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【寄稿】
東京大学大学院教育学研究科教授
佐藤 学

「教職大学院」の検討すべき課題

実務家教育ではなく専門家教育を

議論のプロセスに問題

 教職大学院の設置構想は、突然、浮上した。2004年の夏のことである。義務教育費国庫負担制度をめぐって窮地に追い込まれていた河村文部科学大臣(当時)は、「教員の資質向上」を提言し、「大学院における教師教育」の構想を提起した。この提案は、中山成彬大臣に継承され、「教員の資質向上」を目的とした専門職大学院として中央教育審議会に諮問された。
 この段階で、文科省の高等教育局は、将来展望の見えない教員養成系単科大学の補強策以上の意味を教職大学院には与えていなかった。法科大学院のような専門職大学院の一つとして、10程度の教員養成系大学に教職大学院を設置して教員の資質向上を図り、学校や教員に対する社会の不信を払拭しようとしたのである。
 文科省は、まだ、この問題の重大さに気付いてはいなかったのではないかと推察する。当惑したのは、地方国立大学の教育学部である。いずれも教員養成を目的とする修士課程の大学院を持っている。それをレベルアップするというのではなく、従来の大学院を無視して(あるいは否定して)、教員の資質向上を目的とする教職大学院を創設するというのである。当惑は当然である。
 「国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会」いわゆる「在り方懇」において、地方国立大学教育学部の統廃合が検討された後であっただけに、教職大学院は統廃合計画の一環として認識された。ところが、中教審に教職大学院の審議が付託された直後、文科省は、大都市部を中心に教員の大量採用時代が到来しつつあることを理由に、いわゆる「ゼロ免」課程を廃止する方向を示唆したのである。「在り方懇」によって統廃合の危機に震撼させられた事態は、一体何だったのか。教員の大量採用時代到来の予測によって、統廃合の危機は一挙に消滅する。
 そうなると、教職大学院の位置付けはどうなるのか。混乱は混乱を呼んで、今日を迎えている。教職大学院の設置は、私立大学も含めてせいぜい22大学程度(一部は財務省との交渉で困難な見通し)にとどまる可能性が高い。新構想の教員養成系大学3校(兵庫教育、上越教育、鳴門教育)のほか、大学院の定員割れが深刻ないくつかの教員養成系の単科大学が設置するぐらいだろう。


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