実践!初年次教育講座

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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学問への興味を喚起する「学問の世界へようこそ」

 2008年度、リベラルアーツ学群のAO入試と推薦入試による入学者を対象に始めた入学前教育が「ブリッジ・スクール」だ。高校と大学をつなぐ架け橋と考え、導入1年目は学習や大学生活への不安をぬぐい去ることを目的として、英語のリメディアル教育や仲間を知るためのコミュニティー活動などを行った。
 受講生への事後アンケートでは、「楽しかった」「友達ができた」「入学が楽しみになった」など、9割以上が前向きな感想を寄せた。だが、入学前教育への真の評価が見えてきたのは入学後だ。ブリッジ・スクールのプログラム開発と運営に携わった井下千以子教授は、入学から半年後、受講生にフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)を実施。すると、事後アンケートとは異なる声が集まった。
 「ある程度、入学前の不安は解消されたが、楽しいだけではなく、大学の授業がどのようなものかを知っておくとよかった」「大学はこの程度かと思ってしまった。春休みにもっと勉強すればよかったと、入学してから感じた」「簡単だ、安心だと思うことが入学後のストレスをなくすことにはならない」など、ブリッジ・スクールが必ずしも効果的に機能していないことがわかった。大学生活への適応やリメディアルを重視するあまり、大学教育の本質である「学問」に触れさせる視点が抜けていたと、井下教授は考えた。
 そこで、2009年度は全学群のAO入試と推薦入試による入学者を対象にし、「ブリッジ・カレッジ」と名称を改めた。「ガイダンス」「英語の授業」「学問の世界へようこそ」のプログラムに再編成し、リメディアル教育よりも入学後の専門教育を重視する内容にした。前年度と同様、キャンパスにおける教職員や他の受講生との交流も視野に入れた。
 一番の特徴は、「学問の世界へようこそ」だ。学問のエッセンスを取り入れ、大学での学びへと導く授業を「学問の扉」として設定し、それらの面白さを経験させる。担当するのは基盤教育院の複数の教員で、学問の構成要素として「主体的に考える・問いがある・発見がある・仲間を知る・楽しい」を意識した授業にするよう求めた。受講生は、1日目に「学問の扉」の中から授業を1つ受ける。2日目に全員でそれぞれの学びを共有した。井下教授は、「知識は教わるものではなく自分でつくっていくもの」「なぜ?という問いが学問の鍵」など、大学での学びに臨むうえでの心構えを説いた。
 事後アンケートの結果は、9割以上が満足するなど、前年度と大差がなかった。しかし、自由回答では、「すべての授業を受けたかった」「高校にはない内容で新鮮だった」と、内容は前年度に比べて大きく変化していた。担当教員へのアンケートでは、「普段の授業と異なる場面を体験し、授業方法など考えることが多々あった」など、意識の変化を物語る声が多く、FDにつながる可能性が示された。

入学前教育の実施状況と調査内容

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