特集 高校教育の「不易と流行」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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「で」ではなく「が」でする進路指導

高田 次は「進路指導」にテーマを移します。70〜80年代は進路指導といっても、実質的に行われていたのは成績によって生徒の進路を振り分ける「進学指導」が中心でした。しかし90年代以降、生徒に生き方・在り方、将来の職業を考えさせた上で進路を選択させる本来の意味での「進路指導」が、多くの高校で行われるようになりました。

 この背景には、社会や子どもの変化があると思います。社会の変化としては、私が大学生の50年代のころには、目的を明確に持っていなくても、大学進学者自体が少なかったこともあり、大学さえ卒業すればあとは何とかなっていました。しかし、今は明確な目標を持ち、それに向かって努力を積み重ねていかなければ、なりたい自分になかなか近づくことができない時代です。

 子どもの側の変化としては、「自分さえよければいい」「今がよければいい」という「ワタクシ化現象」が顕著だと感じています。そういう生徒の意識を社会と未来に向かわせるためには、進学指導から進路指導へと転換しないと対応できなくなったということだと思います。

 

松高 90年代に入ったころがターニングポイントだったと思います。生徒の気質が変わってきましたし、それに対応して進路指導の在り方も変えざるをえなかった。鹿児島県で進路指導研究協議会が発足したのも、ちょうどその時期でした。

 そのころから生徒に強く伝えていることは「進路選択は、『で』ではなくて『が』でするんだよ」ということです。「A大学いい」ではなく、「A大学いい」と言える生徒を育てるための指導が始まったのです。

 

高田 社会や未来に対して、夢を描けない生徒が増えている時期でしたからね。

 

松高 ただ一方で、自己矛盾も感じています。生徒に本当に学びたい学問、なりたい職業を見つけさせたとしても、一方でセンター試験の自己採点に基づいて志望校を決めるという現実があります。最終的には、最大公約数的なところで折り合いをつける進路指導を行わざるをえません。それは、いつも悩んでいることです。

 

高田 2005年の12月に朝日新聞が「今、なさっている仕事は、やりたいと思っていた仕事ですか。そうではありませんか」という興味深いアンケートを行っています(注1)。「やりたいと思っていた仕事」と答えた割合は38%、「そうではない」と答えた割合も39%と、ほぼ同数でした。

 なりたい自分を描かせることが進路指導です。でも、なりたい自分に必ずなれるとは限らないのが人生です。なりたい自分になれなかったとき、それでも自らの人生を主体的に切り開いていく力を生徒に身につけさせることも、これからの指導では重要になってくるのではないでしょうか。

注1)朝日新聞社のよる「定期国民意識調査」(28回目)より。

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