未来をつくる大学の研究室 電波天文学・星の誕生
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研究テーマは?
分子ガス雲の探索で発見した「星のたまご」

  ここで、宇宙の成り立ちについて簡単に説明しておきましょう。

 宇宙は、今から約137億年前に「ビッグバン(※4)」と呼ばれる爆発的な膨張から始まりました。爆発の衝撃で物質が広がっていく中で、それぞれの物質は互いの重力によって引き寄せられ、やがて数千億個の塊が生まれました。この塊が「銀河(※5)」です。この銀河こそが、星(恒星)が生まれて死んでいく基本的な舞台となります。そのメカニズムを解明することが、私の問題意識の根幹となっています。

 では、星はどのようにしてつくられるのでしょうか。星は分子ガス雲から生まれます。分子ガスが自らの重力で集まり、次第に濃くなっていくと、「星のたまご(※6)」というガスの塊ができます。やがて、その中心に「星の赤ちゃん(※7)」ともいえる原始星が生まれ、周囲のガスが吹き払われて“大人の星”になります。

 星の寿命は、質量によって異なります。太陽のような軽い星は100億年ほど燃え続けたあと、収縮して静かに一生を終えていきます。反対に、太陽より約10倍も重い星の寿命は1000万年ほどといわれ、最後は「超新星爆発(※8)」を起こして華々しく散ります。そして、星がその一生を終えたときに放出されるガスが、再び凝縮して次世代の星をつくるのです。つまり、星の一生を考えたとき、質量が非常に重要になるわけです。

 では、星の質量はいつ決まるのでしょうか。それは、「星のたまご」の段階です。私が研究を始めたころは、「分子ガス雲が星をつくるらしい」と推測されていましたが、観測で確認するまでには至っていませんでした。しかも、輝き始めたばかりの「星の赤ちゃん」なら赤外線やX線で探索が可能ですが、分子ガス雲である「星のたまご」は光で探すことはできません。

 考え抜いた結果、私たちは、分子が発する電波で測定する方法を取りました。この方法により、「おうし座」の領域を徹底的に探索することで、私たちの研究室では、90〜95年に世界で初めて「星のたまご」を発見したのです。

用語解説
※4 ビッグバン  宇宙の草創期に起きた急激な爆発的膨張のこと。その膨張は現在も続いており、宇宙は広がり続けている。なお、ビッグバン以前の宇宙では、ごく小さな空間にあらゆる物質が集中していたと考えられている。
※5 銀河  数十億個から1兆個の星で構成される星の集まりで、その形状によりだ円銀河と渦巻銀河に分類される。夜空に見える「天の川」も太陽系を含む銀河の一部で、特に「銀河系」と呼ばれる。
※6 星のたまご  星が生まれる直前の分子ガスの塊のこと。主成分は水素分子ガスで、密度は1立方センチメートルあたり10万個以上になっている。
※7 星の赤ちゃん  誕生直後の若い原始星のこと。分子ガスが低温なのに対し、原始星のガスは数千度以上で、粒子が激しく動き回っている状態である。
※8 超新星爆発  大質量の恒星が最終段階で迎える爆発的現象。爆発後は中心にブラックホールや中性子星が残り、周囲には超新星残骸と呼ばれる星雲ができる。
写真1
写真1 電波天文台「なんてん」の後継機「NANTEN2」は、南米チリのアタカマ高地(標高4,800メートル)にある。晴天率の高さ、大気の安定性など、天体観測に最適な場所で、各国の天文台が集まる。
写真2
写真2 「NANTEN2」の模型。受信機は超伝導を利用した世界最高感度のもので、学内の装置開発室で開発された。「観測装置は、自分たちでつくるのが一番」と福井教授は言う。

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