教科指導最前線・化学
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実験後の「考察」を通じ論理的な思考力を養う

 このように土台を築いた上で「考える力」の育成に力を注ぐ。例えば、実験後には必ず「考察」を提出させる。言葉を使って、論理的に思考させるためだ。ポイントは「感想・反省」の用紙を別に用意すること。
 「『仮説がどのように検証されたか』『予想通りの結果にならなかったのはなぜか』などと、筋道を立てて考えるのが『考察』ですが、これを感想や反省と混同して書いてしまう生徒が多くいます。実験の考察は論理的な思考力を養う貴重な機会ですから、手を抜かせないようにしています」
 更に篠山先生が重視するのが「思考を続ける力」の育成だ。
 「5分間しか思考を続ける力がなければ、解答に10分間の思考を要する問題は解けない。そこで、授業中はバランスよく指名して発言を求め、『次は自分が指名されるかもしれない』という緊張感を全員に持たせるように心がけています」
 その合間には、しばしば脱線して化学的なエピソードを披露し、化学への関心を高めることにも余念がない。例えば、水素と窒素からアンモニアを合成する「ハーバー・ボッシュ法」の化学式は「N2+3H2↓2NH3」だ。だが、この式の背景には、第一次世界大戦直前、爆薬や肥料の原料となる硝石の輸入が止まる事態となったドイツで、ハーバーらが苦心の末生み出した歴史があることを伝える。更にハーバーの人生にも触れることで、学習に対する姿勢が全く違ったものになるという。
 「土台となる基礎的な知識・理解と、化学への関心・意欲がそろえば、自ずと『考える力』は磨かれていくのです」

イメージを大切にしつつ言語化して理解させる

 近年、篠山先生は生徒の思考が「イメージ」に偏っていることにも問題を感じているという。例えば、ある物質の色を尋ねると、「赤っぽい」といった漠然とした表現を返す。理解したつもりでいる生徒に説明を求めると、うまく言葉が出てこない。
 「イメージとして何となく理解しただけで満足し、きちんと言葉で説明できるようになるまで理解を深めようとしないのです。そのように言葉を軽視するのは、インターネットやゲームの普及で画像や映像に触れる機会が増えている影響ではないでしょうか。この問題は、語彙が増えないために思考が深まらないという別の問題も生じさせていると思います」
 もっとも、篠山先生はイメージ自体の大切さは否定しない。原子や分子をはじめ、肉眼では捉えられない内容の多い化学の学習では、想像力を働かせることが重要だからだ。しかし、篠山先生は「イメージを言語化して、はじめて一つの学習が完了する」と、もう一歩、先に進んだ学習の必要性を強調する。
 そこで、篠山先生の授業では、イメージと言語の双方を重要視している。できる限り実験を取り入れると共に、副読本の写真や図解を活用してイメージを膨らませたあと、小テストなどによって用語を定着させているのだ。
 「共通の言葉を用いて互いのイメージを正確に交換する。これは日常生活にも応用できる科学的リテラシーの一部にほかなりません」
 課題に対し、まずはしっかりと土台を固めることから対策を進める。一見、遠回りに感じられる方法が実は最も確実な早道であることを、篠山先生の授業は示唆している。

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