未来をつくる大学の研究室 蚊の生態や感染のしくみを解明し感染症の予防・治療につなげる
伴戸寛徳

伴戸寛徳さん

Bando Hironori
帯広畜産大原虫病研究センター  原虫進化生物学研究分野博士課程1年 〈北海道札幌手稲高校卒業〉

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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大学院生が語る

身近にいる微生物から
感染予防への道を探る

Q:なぜこの分野に進んだのですか

A:大学時代には、微生物農薬の研究をしていました。農薬といえば殺虫剤が主流ですが、それは自然や人体への悪影響が問題になっています。そこで、注目されているのが微生物農薬です。例えば、作物を食べる虫に寄生する菌をまいて殺虫するという方法です。もともと自然界に存在する微生物を使うので、環境への負荷も減らせるからです。
 微生物は生物の中で最も繁栄していて、高温のマグマの中にも、何千メートルの深海にも、生息しています。中・高時代は、そうした特殊な環境にいる微生物に興味がありました。しかし、大学で学ぶうちに、人間の体の中には、まだまだ分かっていない微生物がたくさんいることを知りました。そして、身近でありながら無限の可能性を秘めている微生物に魅力を感じ、研究テーマに選んだのです。
 嘉糠先生の研究室は蚊をターゲットとしていますが、私は微生物の観点から蚊にアプローチしています。

Q:現在の研究内容を 教えてください

A: 人間の腸に大腸菌がいるように、蚊の腸の中にも菌がいます。蚊は吸った血を腸にためるのですが、腸にいる菌と後から入り込む病原体がどのような関係にあるのか、病原体の媒介を腸内環境で抑えることはできないかという視点から、研究を続けています。
 修士課程2年生の時には、マラリアが頻繁に流行する地域に生息する蚊の腸を調べるため、西アフリカのブルキナファソで調査・研究を行いました。1か月かけて、数百匹の蚊を採集し、一つひとつの腸を取り出して調べたのです。すると、蚊の腸にはセラチア菌がいると分かりました。帰国後、セラチア菌がマラリア原虫にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、抗生物質を投与して腸を無菌状態にした蚊と、セラチア菌だけを持つ蚊に、それぞれ同数のマラリア原虫を入れました。すると、無菌の蚊の腸内ではマラリア原虫が300個に増殖したのに対し、セラチア菌(※4)を持つ蚊は60個と増殖数が少なかったのです。今は、セラチア菌をマラリアの感染予防に応用できるよう、マラリア原虫がどのように抑制されているのか、メカニズムを探っています。

Q:高校生へのメッセージをお願いします

A:高校時代は弓道部に所属し、2年生の時には主将となり、高校総体に出場できるほど打ち込みました。この時に、何事にもあきらめずに取り組むという、精神面の基礎が出来たと思います。部活動でも勉強でも趣味でも、一つのことに全力を傾けてみてください。一つのことに一生懸命になれる人は、受験勉強でも大学の研究でも、興味を持ったことには全力で取り組めるようになると思うからです。
写真
写真3 ブルキナファソでの蚊の採集の様子。部屋の床全面にシートを敷き、殺虫剤をまいてドアを閉め、しばらくしたらドアを開けてシートに落ちた蚊を1匹ずつ集める。2、3畳の広さの部屋で、血を吸った蚊が100匹以上採集できる
図
用語解説
※4 セラチア菌 水や土の中、動物や人間の腸など、さまざまな場所に存在する。数種類の菌の総称。病原性は弱いが、抵抗力の落ちた病人や手術直後の人が感染すると、敗血症や呼吸器感染症などを引き起こすことがある。

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