ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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 学標記のテーマについて、平成13年度東京大学の入試問題を例にとって考察してみたい。

データ43


この問題を解決するための基礎事項は、

「f(x) を決定せよ。」という問題であり、f(x) を求めていけばよいので指針は明瞭である。
 その途中で、きっと a, bに条件を付けざるをえない状況が起こる。
  ― このように、まず見通しを立てることができること。
積分は、積分変数に注目して、それ以外の文字を取り出すことができること。
定積分は定数として、文字で置き換えることができること。
f(x)はxの関数なので、xについて整理することができること。
どの文字について連立するのか、連立方程式として式が整理できること。

 
データ44

 それでは、ア・イ・ウ・エが完全に身に付いていれば、この問題が解けるだろうか。実はそこに偏差値60を越えることができるか否かのキーがある。ア・イ・ウ・エを単問として完全に解くことができても、この問題が解けない生徒は多いに違いない。最近、「総合的な学習の時間」の意義として“知の総合”とか“知のネットワーク”という言葉が使われるが、数学においてもまさしくそれである。基本事項がバラバラに頭にしまいこまれているのではなく、互いがネットワークを持ちながら有機的に頭に整理されていて初めてこの問題が解ける。そのネットの役割をするのが、実は先に挙げたの基礎事項なのである。

 もう一題見てみよう。

データ45

基礎事項は、
関数c(t)がt>1でつねに減少⇔t>1でc'(t)<0(見通し)
点P,Qが双曲線xy=1上にあることがわかること。
a(t),b(t) の意味を正確に把握できること。
c'(t)の分子をf(t)と置き直すことができること。
f"(t)が活用できること。

データ46

 これも以上のように解法を分解すると、何でもない問題である。しかし生徒にとって、a(t),b(t)を求め、c'(t)の分子をf(t)とおいて、と判断していくことができるか。この一連の思考に連続性を持たせることができるか否かがキーなのである。そしてその連続性を可能にするものが“知のネットワーク”である。


 それでは、その“知のネットワーク”はどのように養成できるか。数学を学習することの良さは、「問題を正確に読み取る。先を見通す。問題の本質を焦点化する。試行錯誤する。整理して考える。気付く。論理的に思考する。簡潔に表現する。」ことにある。これらの態度を平素の授業の中でいかに養っていけるか。具体的には先述のの基礎事項で示したような数学的思考の方向性とでもいうべきものや、「類推する。帰納する。演繹する。一般化する。特殊化する。具体化する。一点を固定する。一つの文字に注目する。文字を減らす。場合に分ける。まとめて置く。図や表やグラフにする。値を入れてみる。記号で表す。補助線を引く。正確に計算する。」などの数学的な物の見方や処理の仕方を、授業の中で提示しつつ試行錯誤させて答を導かせる。そして、再度論理の筋道を検討させ、解法が上手であったか、別の解法は考えられないか、常に工夫させていく。即ち、解法を知識として教え込むのではなく、基本事項のつなぎ・ネットになる部分(それこそ数学の命だと思うのだが)をいかに育てていくかにかかっている。


 例えばテニスや野球において、フォームや素振りが大切なことは論を俟(ま)たないが、それだけやっていては少しも面白くないし、具体的なプレーの中で基本の大切さを体得しない限り上達はありえない。このことと全く同様に、数学においても具体的な解法の流れの中で基本事項を確認していくことが大切なのである。それで、一題を解く中に出来るだけたくさんの基礎事項や基本事項が要求される息の長い問題を、ある程度の数をこなさせれば、やがて生徒が急に偏差値60を越えていくことを体験できる。


 偏差値60を越えさせるポイントは、数学の良さや数学的な物の見方・処理の仕方を通して、知のネットワークを養成することにある。そのために、教師自身が常日頃から多角的な視点を養い、さらに問題の由来や出所を調べる努力をしていくことが肝要である。



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