授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸ばす -学力向上のための基本調査2008より

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第1章 子どもの家庭学習力を育てる教育の創造

早稲田大学大学院教職研究科教授 田中 博之

1.研究課題の設定にあたって

子どもの総合学力の向上をめざして、私たち総合学力研究会(事務局:ベネッセ教育研究開発センター)は、「学力向上のための基本調査2003」をはじめとして、この5年間に多くの実証的な調査研究を行い、その科学的な知見を元にして子どもの学力向上に有効な手立ての提案を行ってきた。その研究テーマを整理してみると次のようになる。

第一回調査 子どもの総合学力の構想と社会的実践力及び学びの基礎力の提案
        (「学力向上のための基本調査2003」)

第二回調査 大人の総合教育力の構想と教師・保護者・校長による連携の提案 
        (「学力向上のための基本調査2004」)

第三回調査 子どもの「読解力」を伸ばす総合教育力を発揮する方法の提案
        (「学力向上のための基本調査2006」)

これら3回の調査研究を通して、私たち総合学力研究会のメンバーは、「豊かな学力の確かな育成」をスローガンとして、学校教育のバランスの取れた改善を総合的な施策として提案してきた。それは、次のような3点の原則からなる学力向上のためのメッセージであった。

原則1 子どもの学力を多面的で構造的なものとしてとらえること

原則2 子どもの学力向上に関わる大人の豊かな協働体制を生み出すこと

原則3 学校の中長期的な学力向上に向けた実践の積み上げを大切にすること

このような研究テーマと、研究の背景に位置づけたしっかりとした原則を生み出すバランスの取れた教育哲学を基盤として、私たち総合学力研究会が提案してきた学力モデルや多様な教育手法の提案は、ありがたいことに多くの教育委員会や学校から認められ、それぞれの独自の学力調査の設計やその診断結果に基づく学校改善と授業改善に役立てていただいていることを、心より深く感謝したい。

今回、第四回調査の研究テーマを設定するにあたって、次のような課題意識が研究会の討論を通して明らかになってきた。

一つ目の課題は、研究会メンバーによる数多くの学校訪問を通して気づいたことであるが、昨今の子どもの学力向上の課題は、やはり家庭での子どもの学び方や生活のし方と切り離して考えることはできないということである。

最近は、全国的にどの市区町村でも小中学校の教師は、どのような方法であれ学力向上のために熱心に取り組んでいる。しかしそのような熱意ある取り組みにおいても、どうしても成果を上げにくい状況が残ってしまうという感覚は根強いものである。その要因の一つは家庭である。

この「家庭の教育力の低下」という問題に対しては、「今ほど親が教育熱心な時代はない」とする反論や「家庭の子育ての負担感を増すようなやり方はよくない」「家庭の教育責任の一面的な強調は、教育格差の拡大につながる」と危惧する声があるのも事実である。しかし、現に、家庭での睡眠や食事、そして遊びに関わる子どもたちの生活習慣の乱れはもちろんのこと、宿題、予習、復習、読書等の学習習慣についても計画性や適切な量を保障できていない家庭が少なくなく、基本的生活習慣や学習習慣の確立に向けて子どもへの適切な働きかけを促すような支援を必要としている家庭が少なくないこともまた事実である。

すでにそのことを私たちは、第一回調査において指摘している。具体的には、子どもの総合学力モデルの中に「学びの基礎力」という領域を設定して、その重要性を訴え、子どもの家庭での生活習慣と学習習慣が教科学力との間に強い相関関係を持っていることを全国規模の調査結果から明らかにしてきた。(1)

注:(1)田中博之・木原俊行監修『豊かな学力の確かな育成に向けて』ベネッセ教育総研、2003年に詳しい。

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